春を待つきみ【nqrse】

13 そしてもう一度恋をする ページ13

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何処を通ったのかも覚えてないまま走り、気がついたら、私たち二人が始まったあの桜の木の下にいた。

私たちからしたら大きいのだけど、近隣の桜と比べたら一回り二回りも小さい桜の木。
まだ桜は開花していなくて、ピンク色の蕾をいっぱいに膨らませて風に揺れている。

私はあの時、立ち止まって桜を眺めていた成瀬に声をかけた。



「この桜綺麗ですよね」
「……はい、とても」
「私も好きなんです」



ナンパみたいに私から話しかけた、あの日のことを思い出す。
付き合い出してから成瀬は、「あの時はナンパかと思った」ってよく言ってたっけ。

つう、と涙が頬を伝う。
大好きだった。愛してた。彼となら何処まででも走っていけるって、そう思っていた。
今更彼無しで生きていけるほど、私は割り切れる女じゃない。


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あれから私は、毎日桜の元に通い続けた。
意味なんてないってわかってた。こんなことしたって、成瀬は私のことを思い出さない。

ただの自己満足だ。成瀬と出会った場所に来て、ただ一人で思い出に浸る。

それでも今日は、意味があった。

四月一日。
三年前のこの日、私と成瀬は冗談みたいな出会い方をした。
嘘が飛び交うエイプリルフール。午前中、多少は午後も嘘ばかりが耳に入る。
でも、私達の出会いは嘘なんかじゃなかった。嘘だったなんて、私は絶対に言わせない。

この間買ったばかりの春色のスカートを揺らし、お気に入りのヒールでコンクリートを叩く。
まるで今からデートをするかのようにおめかしして、今日も桜を見に行く。
本当だったら、成瀬と二人でここに来ていたのだろう。

成瀬が事故にあっていなかったら、なんて。今更どうしようもないのに。
零れ落ちそうになる涙を引き留めようと、立ち止まって空を仰ぎ見た。

哀しいくらいに青い。
雲ひとつなく、どこまでもパステルブルーの空が広がっている。
私はこんなにも泣きたいのに、心の中は雨なのに。
少しくらい気持ちを察しろばか。空に願っても無駄だけど。

もう一度歩きだそうと、もうほぼ目の前にある桜の木に視線を移す。

そこには、既に人が立っていた。
見覚えのある髪色。こんな個性的な髪型、他にいないと思う。


――成瀬。

呟いた声は、桜を揺らす風に溶けて消えた。
きっと彼は、私のことなんて覚えてない。

ねぇ、私、もう一度あなたと出会って恋がしたい。

三年越しでもいい。二度目でもいい。
だから、



「その桜、綺麗だよね」



もう一回、答えてよ。




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