春を待つきみ【nqrse】

11 四月の嘘にしては早すぎる ページ11

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『彼氏さんが目を覚ましましたよ』
「っ本当ですか！」

事故から数週間後、一本の電話が私の携帯を震わせた。
知らない番号だと思いながら出てみれば病院で、彼が目を覚ましたという。

『面会に来てももう大丈夫なので来ていただけると助かります』

そう嬉々として告げる看護師さんに了承の返事をしてから電話を切り、早速支度を始めた。
鞄に携帯、ハンカチ、財布、それから成瀬が好きなお菓子。家に常備されている分から一箱取り出し、同じく鞄に詰める。

そういえば彼が入院している病院の前の桜並木は、私と彼が出会った場所だった。
もうすぐで、四月一日に出会って三年になる。
桜並木の中にある、一つだけ小さな桜の木。木は小さいのに、堂々と咲き誇る花を眺めていた時、同じく立ち止まって花を眺めていた成瀬と出会った。
あの木の下で、出会ってもう三年なんて早いね、と他愛のない話がしたかった。

ああもう、早く会いたくて仕方がない。
心配かけるな、死 んだかと思った、って言ってやりたい。そして、何度も抱きしめたい。彼の存在を確かめるように。


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受付で病室の部屋番号を聞き、エレベーターに乗って向かう。
もうすぐ会える。もう二週間くらい我慢した。
彼に出会ってすぐ抱きつくくらいしたって、誰も怒らない。
わくわくしながら向かった彼の病室まであと五メートル、というところで病室から誰かが出てきた。
トマトくらい赤い髪。とても目立つ人。

「荒木、さん？」

成瀬と一緒に歌い手・あらきとして活躍する荒木くん。私は歌い手ではないけど、成瀬の友達だったから、私も彼のことは知っていた。

「お見舞い来てくれたんですね、ありがとうございま――」
「Aちゃん、」

俯き、今にも泣きそうな声で荒木くんは私に言う。

「辛いことだと思う。だけど聞いて」


成瀬、Aちゃんの記憶が無いんだよ。




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