10 ページ10
.
「…今日はいなさそうだな」
一緒に夕日を眺めるというなんとも謎イベントから時間もそれなりに経ち、なんだかんだこの校長室にダラダラと放課後居座るようになってしまった。
とはいえ別にお互い毎日いるわけでもないし、待ち合わせをしているわけでもないので1人でこう時間を潰すときもある。
最初はあんな反応をされたものの今となっては別に追い出されたりもしないので小難しい本を読む松村くんから少し離れたところでゲームをしたり漫画を読んだり、たまにネイルとかメイクとか色々してなんだかんだ楽しんでる。この誰もいない感じの空間は結構落ち着くんだよね、しかも友達ともなんだかうまく付き合えるようになれた、気がする。多分。思春期だったのかな、本当に。落ち着く時間が必要だっただけなのかもしれない。
「お、はよう」
「…おはよう」
と、言ったものの普段の学校ではぎこちなくしかなんだか話せないし話さない。こうやって挨拶をする程度だし、別に特段共通の友達もいないし。同じクラスの田中が「もっと仲良くしろよ」となぜかお節介を焼いてくるが、多分田中は誰にでもこんな感じなので「そうだね」と適当に返しておくぐらいが正解だ。
しかし2人でそこそこ雑談はするし、たまに一緒に帰りはするもののなんで松村くんが1人でいたのか？あの時あの場所で何をしていたのかは、まだ聞けていない。
…でもちょっとだけ、実は予想なんてついているのだ。旧校舎にいた理由はわからないけどあの日あの駅になんでいたのかは、駅裏の歓楽街、ホテル街、着崩した制服とちょっとだけ乱れた髪でなんとなく予想はつく。まあそういうことなんだろうと、多分だけど。でも今の松村くんからそういうことが想像できないから不思議ではあるけども。
そんなことを考えながら席からぼんやりとグラウンドを眺めていれば携帯に届く着信に手を伸ばせば「今日は来るの？」という短い文面に慣れない名前、なんなら謎に田中から連絡先を送られてから初めてのやりとりじゃないか？と思いながらトーク画面を開く。
来て欲しいなら来てって言いなよ〜と茶化した文面を送るくせに暇な日は旧校舎に出向くことがなんだかルーティーンになってしまったのは間違いない。今日は誰とも前からの約束も用事もないため元々行こうと思っていたけどね…と思いながら送った文字には案外早く既読がついてびっくりした。
「…やっぱひねくれてはいるのか」
「別にそんなこと言ってないでしょ」「別に1人でいいんだけど」と言うあまりに刺々しいひねくれた言葉の数々に失笑が溢れる。とかいいつつ結局行ったって追い出したり嫌な顔はしないあたり、まあ、なんだかんだ優しさはあるよね。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七瀬
| 作成日時：2023年12月9日 22時
