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「で、北斗と友達なの?」
「うーん、まあ、ちょっとした知り合い、ぐらい」
あの後結局しっかりと遅刻したし、こってり担任には絞られた。今だって罰として2人で自習時間という名のクラスメイトが遊んでる時間に明日の学年集会で使う資料をせっせとホチキス止めしている。まあ友達というには、ちょっと関係性が薄いような、でも知り合いというにはちょっとだけ濃いような、わからない。だってまだ昨日の今日だし。
「ま、顔見知りだしちょっと話しただけって感じか」
「まあ、そんなとこかな」
あいつ友達ほんと少ないからよかったらそのまま友達になってやって、とそのまま特に興味もなさそうにホチキスを止めてくれるし、私が止めていたホチキスはきっと田中が好きなんだろうな〜というクラスの女の子が代わってくれたので「あっずりい!慎太郎代わって!」と叫ぶ田中を無視して席に戻ることにする。ちなみに普通に断られてたし、女の子とはデレデレしてた、ほんとに深掘りされなくてよかった。やっぱり旧校舎でいろいろ変なことしそうだもんな、これ言ったら怒られそうだけど。
自分の席に戻って友達と話していれば喉が渇いたのでこっそり教室を抜け出して自販機に向かうことにする。周りに聞いても飲み物は私しか飲まないらしいのでこそこそと1人で教室の後ろのドアから抜け出して階段を登った。学校全体での会議らしいので廊下に出てもいろんなクラスがまあ賑やかである。もう先生方も諦めてるだろうな。
そんなことを思いながら歩いていればポケットの携帯が短く震えたのにごそごそと漁れば、田中から「これあげる」と何か通知が来ていた。同じクラスになって以来、特段仲がいいわけでもないからそんなに会話すらしたことないのに何?と思いながらひらけば「松村北斗」と書かれた連絡先に「え?なにこれ」と返すしかできない。
…田中絶対なんかちょっと変なこと考えてるな、と思いながら「ありがとう、でもほんとに顔見知りなだけだから」「クラスも違うし」と重ねて返して携帯の電源を落として自販機の前に立った。
…なんか自販機の前に立ったらちょっとだけ思い出してしまったな、と松村くんと駅で話した日のことを思いながら無意識のうちにココアに手を伸ばしてボタンを押していたみたいだ。なんだかんだ松村くんのことがぼんやりでも忘れられなかったのは、あの冷たくて寂しそうな顔をなんでしていたのか気になるからなのかな、と色々と物思いにふけっていれば「北斗何飲むの?」と廊下の奥から聞こえた声にびくりと肩が跳ねて、何もやましいことなんてしてないのに柱の陰に隠れてしまった。
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作者名:七瀬 | 作成日時:2023年12月9日 22時