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「田中?樹と同じクラスなんだ」
「え?うん、そうだよ、友達?」
「うん」
「えっ、意外なんだけど」
「失礼だな」
前会った時はもっと優しくていい人だった気がするんだけど、とぼそりとつぶやかれた声に「覚えてたの?」と少しびっくりすれば「あ、いや、まあ、」あんな強引な人忘れるの難しいし、となんだか罰が悪そうな顔をさせてしまった。まあ確かに、今だって強引に松村くんのテリトリーに踏み込んでソファーに座っているようなものだし、前だって勝手に話しかけて勝手に飲み物を押し付けて、勝手に傘まで押し付けたし…いや、ちょっと押し付けすぎだし、流石に迷惑すぎるのではないのだろうか。
そう思えばなんだか申し訳なくなってきて「…まあ、旧校舎入れたし、帰るわ」突然ごめん、と立ち上がって「じゃあ」と手を振る。…私本当、何してるんだろう。なんだか勝手に来て勝手に荒らして、勝手に帰るやばいやつになってしまった。まあこれで、本当に関わることもないし、いいや。
「え、本当にAさんは何をしに来たの?」
「いやまあ、おっしゃる通りです…」
「…まあいいけど」
じゃあね、と特に松村くんが私を引き止めることもまあないため校長室の少し建て付けの悪いドアを開けてくれるのに「お、おやすみなさい…」と時間帯にしては早すぎる謎の挨拶を置いてドアの向こうに一歩踏み出せば、「ここの3階」と後ろから聞こえた声に思わず「え?」と振り返る。
「窓の外見ると景色いいよ、夕方になると」
今日はあんまり天気良くないからあれだけど、と松村くんが呟くのに「え、あ、そうなんだ」とまたもや意味のわからない言葉を言ってしまった。え、いや、だって分からないでしょ、なんで私にそんなこと言うの?と思いながら足を止めて松村くんの顔をじっと見つめれば「あー、だから」とくしゃりと黒髪を搔いて今度は松村くんが私のことを見る番だったらしい。
「…暇なんでしょ、また、来ればいいんじゃない」
「え?」
「じゃあもう来ないでいい」
「だから松村くんの校舎じゃないじゃん」
そう返せば、だから3階から見えるの綺麗だよって言ったんだよ、とちょっと恥ずかしいのか赤い頬のまま私の前で俯くのになんだか可愛く見えて吹き出せば「もういい、本当に来なくていい」と怒ってしまった。短気なのは松村くんもなのかも。
ほとんど初めて話すのに意外と話が進むし、なんで私のことを松村くんは引き止めてくれたのだろうか。いやまあ、彼からしたら別に引き留めたわけではないのかもしれないけれど。
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作者名:七瀬 | 作成日時:2023年12月9日 22時