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特に旧校舎に行こうと思った理由はない。それこそ古典の教師に同じクラスの田中が「せんせーそういや旧校舎って使われてんの？」と聞いたのに「5年は全く使われてねーなー、その前からあんまり使われてなかったけど…てかお前女子と変なことしようとか思ってねえよな？」「しねえよ！」「てか基本鍵かかってるから行けねえけどな」「俺馬鹿にされ損じゃね？」と笑われていたのを聞いて「旧校舎か…」そういや学校入って一回も行ったことないな、と思いなんとなく行ってみようかな、てかどっか鍵空いてるでしょ、この学校結構適当なとこあるし、と放課後ふらふらと歩いていただけだった。
ちょっとした息抜きになればいい、みたいな単純な好奇心。今まで一度も行ったことがない旧校舎に少しだけわくわくするなと思いながら旧校舎につながるドアに向かってみた、だけだった。最近ちょっとだけ疲れていて、モヤモヤして、それでこんな普段ならしないことをしようと思ったのかもしれない。進路もなんとなく方向性は見えたし、多分そこに受かることができるけど、なんだか落ち着かない。充分なほどに恵まれているのに何故なのだろうか。
…でもただ、少しだけ寂しいというか虚しいというか。そういう類のものだと思う。何かがむしゃらに夢中になれることがないというかなんというか。周りを見渡せば友だちと腕を組んで仲が良さそうに帰る子たち、部活に向かう子たち、自分の目標に向かって頑張る子たち。別に私に友達がいないわけでもなければよく遊ぶ子も休日に遊ぶ子だっている。自分の進路だって決まってる。何も不自由なんてない、なのに、なんでこんなに、色々考えてしまうのだろうか。
親にさらりとこの話をしても「まあいっぱい考えたらいいと思うよ」とあまりまともに取り合ってくれなかった。まあ、そう言われたら多分思春期の若い悩みに過ぎないんだろうな、と思いながら旧校舎に続く少し古いドアノブに手をかけて引くもしっかりと鍵がかかっていて開かない。
「ええ〜…マジで鍵かかってるんだ…」
なんだあ、残念、と諦めかけたその時、ふと4階の端にも古いドアがあったことを思い出して「もしかしてあのドアも旧校舎に続いてるんじゃ？」と階段を登ってそこまで行ってみることにした。
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作者名：七瀬
| 作成日時：2023年12月9日 22時
