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携帯を開くが、当然松村くんからの通知は連絡先を知らないので、ない。友達からのメッセージに返信をして「ねえ、」と運転する親に話しかける。
「そういえば、駅の裏の高校生向けの塾って今あったっけ?」
「いや?何ヶ月か前に全部潰れたからもし塾行くなら学校の近くだねって前にご飯の時話したじゃん」
まあAが塾嫌がったから結局それっきりその話も全くできなかったし行かなかったけどね〜と親のじとりとした視線に「ま、まあまあ…」と適当に笑うもなんだかうまく笑えない。親はそのまま「まー、あれだけ駅前賑わってたらそれこそ高校生の塾ぐらいはありそうに誰でも思うのにね」と話を続けるが私は何も頭に入ってこない。
あの時感じた違和感は、これだったのかもしれない。松村くん、私たちが通うような塾なんてこの駅の周りにないよ。私たちがいた東口側には飲食店とその路地にはホテルとちょっと怪しいお店しかないんだ。そして多分松村くんはこの駅が最寄な訳では、ない。だって朝も帰りも一回も見たことないし。いや別に私に言いたくないし言う義理も全くないからなんとも言えないけど、なぜそんな小さな嘘をついたのだろうか。1人で眺めていた携帯に注がれる視線はびっくりするぐらい冷たくて、寂しそうだったよ。だからと言って、そんなに関係性が変わるほどのことではない。次の日からは今まで通り全く話しかけなかったし、もちろん向こうも話しかけてこない。
これで終わりだ。ここから何かが起こるなんてそんなのまず普通の生活では起こらない。時間も経つし、忘れる。
その後時は流れて私は運良くなんとなーく入ったバイトもできるぐらい緩い文化系の部活でなぜか結果が出て少し先にはなるが、進学先の目処もなんとなくついて、大して勉強もせずにダラダラとしていた。松村くんも松村くんでクラスが変わって友達が増えたのかにぎやかな輪の中にいるのをたまに見かける。もうあの時みたいな悲しい顔も寂しい顔もしてなかったし、携帯を見る目は冷たくなかった。正直言ってもう彼とは繋がりも何もないし思い出すこともない。これは廊下でこの前見たまんまなだけだ。
そんな松村くんとの記憶も薄れていて、忘れそうなぐらいになっていて、それで、だからびっくりした。
「うわっ!?」
「…え?」
誰もいない、もう5年は使われていないからそろそろ取り壊すと今日古典の教師が言っていた旧校舎の教室になんで、なんで松村くんが、ドアを開けたら、なんで、
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作者名:七瀬 | 作成日時:2023年12月9日 22時