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あのあと「別に私も1人でいいし」となかなかに私もひねくれているため松村くんといい勝負の文面を送りつけて携帯を伏せて帰りのホームルームをやり過ごす。今日は彼氏とデートだと楽しそうな髪を巻いている可愛い友達を送り出し、カバンを片手にいそいそと階段を登る。
いや今更だけど4階って結構遠いよな、疲れるんだけど…と思いながら俯いて階段を登っていれば誰かのつま先が視界の端に入って顔を上げた。
「…え？なんでドアの中入らないの？」
初めて会った時、紛らわしいけど旧校舎で初めて会った時から伸びた前髪の隙間から見える瞳が声をかければ徐々に私の方へ向いた。「だって中に人いるんだから無理でしょ」と呟いてから「いやさみいな」と肩をすくめる松村くんの横を通り過ぎてドアにぴとりと耳をくっ付ければなかなかの声量だったり何かを叩く音、「取り壊しは」やらなんやらが聞こえるから多分取り壊しの工事をする人だろうか、もう、壊すのか。
…なんか壊すって聞いたらちょっとだけ寂しいけど、仕方ないのかな、と思いながら「じゃあ今日は帰ろうか」と松村くんに声をかければ「Aさんってさ」と後ろから松村くんに声をかけられてまた足を止める。
「うん？」
「なんとなく本当は気付いてるでしょ」
なんで俺があのとき最寄駅でもなければ、学校の近くでもないあの駅にいたのかも、という感情の読めない声になんだか何もしていないのに冷や汗が出て振り向けば「やっぱり？」とあのときに似ている泣きそうな笑顔の松村くんが立っていてごく、と息を呑む。
「幻滅しないの？」
こんな人間とよく一緒にいられるねって、俺はたまに思うよ、と呟いた松村くんの声は普段と変わらないはずなのに重くて、くるしい。今がそうじゃないならいいじゃん、と思うがそう言っても松村くんは納得するだろうか、いやしないだろうなと、勘が働くのはきっと間違っていない。
「…まあ、なんか理由があってそうだってのかな、って思うし」
「別に大してないよ、楽な方にって、何も考えなくていい方にって流されただけ」
うまくいかなかった時にそう流された時点で気持ち悪いでしょ、と自嘲気味に笑う松村くんは私を突き離したいのか、それとも他の意図があるのかわからなかった。でも「ねえ、どうしたの」と松村くんに問いかけようとして、顔を見て、やめた。
自己嫌悪みたいな顔に、私の語彙力じゃ陳腐な表現になるがあのときと同じ寂しい顔にはっとして「あ、のさあ！」と思ったよりも大きな声が出る。
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作者名：七瀬
| 作成日時：2023年12月9日 22時
