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…やばい恥ずかしい、「なんだこいつ、急にたくさん話しかけてきて」とか思われそう！と思い手に持っている自分のココア缶を握りしめて視線を落とす。
「…あ、もう選ぶ時間ない！お茶でいい！？いいよね！緑茶ね！」
あったかいやつね！となんだか自然に焦ってしまい、ボタンを連打してガコンとお茶が音を立てて落ちてくるのを待って松村くんの手に「ほんと急になんだよってね…なるよね」と独り言みたいな言い訳をして押し付ければ「いや別にそんなことは…」と呟いて松村くんがかちりと携帯の電源を落とした。
なんか小っ恥ずかしいから寝て忘れよう…と思いながら親の「着いたよ、西口にいるね」の通知を確認して「し、じゃあ私帰るね」おやすみ、と彼に背中を向けて「もう寝るもう寝る…」といそいそ出口に向かおうとした、その時だった。
「Aさんってさ、」
「え？」
名前を呼ばれたのに振り向けば、はっとしたように「なんでもない」と松村くんが呟く。お茶ありがと、と彼がペットボトルを掲げて少し何かを言いたげに私の顔を見て微笑んだのに、何も言えなかったし、聞けなかった。だってそこまでの関係性じゃ、ないもん。
でも今日の私はちょっとおかしいし、松村くんもちょっとおかしい。なんでなのかな、すごく泣きそうに見えるよ、松村くんが悲しそうに見えるのは、なんでなんだろう。寂しそうな笑顔だなって思うのは、どうしてなんだろう。
「…松村くん」
「なに？」
「外は雨らしいよ」
「え？あ、そうなんだ」
傘ないや、とおもむろに呟いた彼に「これ、あげる」とカバンに入っていた折りたたみ傘を押し付ける。今日の私は押し付けてばっかりだ。ぱちぱちと瞬きをして「え？」とびっくりした顔の松村くんに「じゃあ、おやすみ」これで風邪引かないでゆっくり寝てよ、となんだか親戚みたいなことを言ってしまった。色々と恥ばかり晒した、気がする。
でも帰り道寒かったなって思って寝るよりは傘あってよかったなって思って寝るほうがいい気がする。自分でも何言ってるかよくわからないけど。悲しそうな顔にできることなんて、いや悲しいなんて松村くんは一言も言っていないから私の押し付けにすぎないけどそういうことを思ってしまう。
傘を渡した後に「ありがとう」と俯いて呟いた松村くんの顔はよく見えなかった。慌てて駆け出して親の車にドタバタと飛び乗れば遅いよ！と言われるのに「ごめーん！電車遅れた！」と適当に言い訳をして携帯を開く。
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作者名：七瀬
| 作成日時：2023年12月9日 22時
