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「何してるの?」
松村くんだよね、と少し驚いたような声が自分でも出たのがわかる。夜10時、高校生が外を歩くには少し遅い時間。友だちと遊んだ帰りということで今日はいつもより遅くなってしまったため家の最寄駅から親の車で帰ろうと駅の改札を通ったところで、ベンチで俯く同じ高校の制服の男子を見つけた。そのベンチの横に自販機があって、それで「まあ親来るまで時間あるしなんか買おう」と財布を探す際に見えた顔に、思わずそんな声が出る。
私の家がある方の駅の入り口は住宅街だが、松村くんと私が今いる入り口は繁華街側で正直裏に入ればあまり治安も良くない。だからといって何にびっくりするのかという話だがクラスでもあまり話しているところを見たことがない松村くんが少し着崩した制服で退屈そうに携帯を眺めているのがなんだか珍しくて仲良くもないくせに話しかけてしまった。正直こういうところにいるとは思えない、図書館とかに、いそうなのに。これ失礼かな。
「…そっちこそ、何してんの?」
塾帰りだよ、駅裏のとこ通ってるんだ、と少し疲れたように返された言葉に「そっか」と返してそれしかない。なんだか違和感はあるけど。塾か、疲れてるのに勝手に話しかけてしまった、そう思って「あー、急にごめん」とだけ呟いて自販機のボタンを押す。…いや冷静になったら、私何してんだ?普段から話す友だちならまだしも松村くんと話したことなんて片手で数えられるぐらいの回数しかないくせに…と思うがなんだか、放って置けないと思ってしまって、話かけたとかいう自分でもよくわからない状況になってしまった。なんで話しかけたんだろう。
ちらりと松村くんの方を見れば少し伏せた目は疲れている以外にも何かを含んでいるように見える、いやこんなこと勝手に言われたらキモいしこんなこと考えてる時点でキモイと言われたら返す言葉はないけども…と悶々としていればいきなり自販機から派手な音が聞こえるのに「うわ!」と声が出る。
何!と思って自販機を見れば一本当たったらしい、いやそんな1人じゃ飲まんわ…と思うも友だちといるわけではないので必然的に「あの〜松村くんなんか飲む?お茶とか…コンポタとかもあるけど…」と横の松村くんに声をかけた。もう明日から話しかけないし目も合わせないからこれだけ許して…と思っていれば今度は松村くんがびっくりしたように「俺?」と私の顔を見ていた。
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作者名:七瀬 | 作成日時:2023年12月9日 22時