5 ページ5
.
「…は、はい」
「あ、出るじゃん」
連絡先追加した？あれ俺のやつなんだけど、と電話口から聞こえる声は全然田中くんじゃない。なんで田中くんの携帯からその声が聞こえるの？おかしいし追加するか、何でそんなことしなきゃならないんだ。
「してないけど」
「え？なんで？してよ」
「なんでしなくちゃならないわけ」
「マジで大学と全然違うじゃん」
「今更どうにかして何もならないから」
化けの皮が剥がれた今、もう電話口で話し続ける京本くんに大学みたいに頑張る必要性は全くない。ていうか早く寝たい、眠いし。確かに京本くんはめちゃくちゃにかっこいいし綺麗な声までしている。所作もなんか美しいし、昨日みたいなことがなかったら今頃とっくに墜っこちてしまっているに決まっているが昨日のことはもう私の弱味みたいなものを握られていると言っても過言ではないためときめきよりも緊張が勝つ。イケメンと話してこんな気持ちになったのは人生で初めてだ。
「ていうかなんで連絡先？私じゃない子と間違えてるんじゃないの？」
「いやいやAさんと別な人は間違えないよ」
「どういう意味？」
絶対にこれは「え！？私が特別！きゅん！」という類ではない。「オメーみたいなラーメンドカ食いしてるやつと他のやつ見分けつかないわけないやん！」ということだ。でもこれを本人に言ったら「捻くれてるね、どうしたの？」と言われた。悪かったねほんとに！？
「何もやりとりすることないよ」
「あるよ」
「何？」
「俺も食べるの好きなんだよね、だから美味しいお店とか聞きたくて」
「そうなんだ、でも京本くんは毎日フレンチ食べてる顔だよね？私は食堂が似合う顔だけど京本くんはホテルのレストラン顔だから好み合わないよ」
「どんな顔？」
Aさんって面白いよね、と電話口の京本くんがふふ、と上品に笑うのに褒められてるのかよくわからない複雑な気持ちになりながら「てかこれ電話田中くんのじゃん、返さなくていいの？」ていうかなんで田中くんの携帯から私にかかってくるのと京本くんに問い掛ければ、「樹にAさんの話したら連絡先持ってるっていうから携帯もぎ取って今かけてる」とさらりと言われる。いや田中くんかわいそうだよ、早く返してあげてよ携帯！
「困るじゃん田中くんがさ！早く返しなよ！電話切るから！」
「そうかな？樹は向こうでナンパに夢中だよ」
「…あ、そうですか」
でも追加して欲しいってことだけ、夜にごめん、おやすみ、そう呟いて京本くんが電話をぷつんと切るのにため息を吐く。でも夜中に1人でご飯食べるのもなんだか寂しい、し、
「…追加、するか」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七瀬
| 作成日時：2023年3月17日 22時
