25 ページ25
.
「…ごめん、ちょっとお手洗いに」
しばらくすれば嘘をつかなくてもトイレに行くことになってしまった。カバンを手に取ってぼんやり酔いが回ったままトイレに行こうと荷物をまとめる。
そういや京本くんはどこにいるんだ？乾杯の時に森本くんの隣にいるのは見た気がするな…と思いながらきょろきょろと探してみれば2つ横のテーブルで女の子に囲まれて笑っていた。…楽しそうじゃん、私ほんとにある意味あった？てか飲み会来るって言った時京本くん不機嫌だったしな、となんだかよくわからないがイライラしながらトイレに行こうと靴を履く。
「トイレ？てかもうすぐ解散だけどA二次会いく？」とさっき意気投合した子が誘ってくれたが「明日バイト午前からだからごめん！」トイレ行ってそのまま帰るわ！ともっともらしい理由をつけて抜け出すとかじゃなくて1人で帰るわ、と自分でもよくわからない気持ちを抱えながらトイレに向かう。「また飲もうね〜！」と後ろから数人が手を振ってくれるのに笑って席を立てばすぐにイライラは消えて、「来てよかったな〜」と思いながら諸々を済ませてドアを開ければどん、と誰かにぶつかるのに「あ、すみません」と顔を上げて、それで、
「どこ行くの？」
「…え？か、帰るけど」
「一緒に帰ろうよ」
抜け出してって言ったのに、と笑う京本くんにいよいよ訳がわからない。え？さっきの一緒に話してた人たちは？てか二次会あるよ？
「京本くん二次会は？」
「行かないよ」
「なんで？用事あるの？」
「ないよ」
でもAさんいないんでしょ、つまんないし、とつま先をみんなとは違う出口に向かわせる京本くんに「なにそれ、別にさっきも楽しそうだったじゃん」何言ってんの？と思ったよりも棘がある声が出た。…え？なんだこれ、別に京本くんが楽しそうでもよくない？私だって普通に楽しんでたじゃん、と慌てて口をつぐんで「なんでもない」ごめん帰ろ、と京本くんを追い越して先にドアを引く。
だめだ、何を言ってもやっても墓穴を掘り続けている気がする。変だ、この前京本くんと2人で話した時から私はなんだかおかしくなった。さっきイラついたのも、今棘がある言葉が飛び出したのもなんで？考えたくない、考えたら、終わりな気がする。
自然に足早になった。ほぼ小走りのような速度で帰路を辿れば後ろから「ねえ」と京本くんの声が追いかけてくる。
「Aさん」
「京本くんほんとに二次会いいの？いっぱい人いたし、田中くんとかもいたよ」
「待ちなよ、Aさんってば」
「早く帰りたいから無理だって」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七瀬
| 作成日時：2023年3月17日 22時
