画家と私。2 ページ17
「ねぇジャック、動いていい?」
「喋るな動くな息をするな。居候として置いてやってるんだから僕の暇潰しくらいにはなれ。」
真正面に顔だけはいい親友を座らせ僕はキャンバスに彼女を映す。
ちぇ、と唇を尖らせて大人しく指示した通りのポーズを取ってくれる。
こうやって黙って大人しくしていれば美女として映えるのに、彼女ときたら性にあわないだの煩く騒ぐ。
「…前から気になっていたんだが、どうして君はそう気取った喋り方をするんだ?金持ちはみんなそうなのか?」
「よくぞ聞いてくれた!実は今私が執筆中の小説があるんだが、その中に出てくる男の気持ちがどうしても書けなくてさ…だから真似する事にしたんだ!」
「本末転倒じゃないか…。時々君が僕と同じ人間だというのが信じられなくなってくるよ。動くなって言ってるだろ君ふざけてるのか。」
「口悪いよ。そうだ!私が文を書いて君が挿絵を描けば最高の本が出来上がるぞ!100年後にも残る大人気小説!結構良いんじゃないかな。」
ふふふ、と妄想を楽しそうに喋る彼女を少し妬んだ。
確かにそれはいい案だ。彼女は文才がある。きっと売れる。
だけれど僕は才能がない。彼女の文を汚す絵しか描けない。現に今描いてるこの絵は彼女に似ても似つかないんだ。
あ、もうダメだ。
カタリ、と筆を置けば異変に気付いた彼女がすぐに「ごめん、動きすぎた。できるだけ息も止めるよ。」と眉を下げて申し訳なさそうに呟く。
どうしてか、その姿が何よりも愛しく思えて思わず微笑む。
すると呼応するように彼女も笑い、次第に笑みは大きくなっていく。
ふふふ、くく、あっはっは、と暫く2人でバカのように笑った。
肩を震わせ、目尻に涙を滲ませて息が切れても笑った。
傍から見ればキチガイだが、僕らにはそれがおかしくて堪らなかった。
後がない逃亡者と売れない画家。
きっと今僕が彼女を殺しても笑って受け入れてくれそうだ。
『殺してしまえよ。』
耳元で冷たい声が響く。
途端、楽しい気持ちが腹の底に沈み落とされる。
後ろを振り返るが誰もいない、いるはずがない。
「ん、ふふ、どうしたジャック。」
「…い、や。なぁ、君、さっき何か喋ったかい?」
「こんなに笑ってるのに喋れる訳ないだろ。ふふ、耳が壊れたか?」
「だよなぁ。うん…」
「あ〜、何だが喉が乾いたなぁ。コーヒー、ジャック、コーヒーくれ。」
「居候に飲ませるコーヒーは無い。水を汲んできて飲め。」
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すぴお - 待って最初の弁護士で腹筋ログアウトしました最高ですアザスありがとうございます応援してます!!! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 5763911021 (このIDを非表示/違反報告)
お豆腐(プロフ) - ちょっとダークな雰囲気で世界観めっちゃすきです!夢主に感情移入しすぎて痛いw (2020年3月4日 1時) (レス) id: 4dd9818095 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 金魚丸さん» どえぇええありがとうございます………………ありがとうございます…………。喜んで書かせていただきます………… (2020年1月26日 19時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
金魚丸(プロフ) - はじめまして…!キャラの特徴だったり世界観だったりとっても大好きです…!新ハンターのアンさんが夢主ちゃんにだけめちゃくちゃ優しい…みたいなお話が見たいです、もしリクエスト受付中であれば是非お願いします!これからも陰ながら応援しています…! (2020年1月26日 15時) (レス) id: 0008ec1201 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 綵宇さん» ぁああありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです……タダでは起き上がらない精神の持ち主じゃないと楽しい荘園ライフを送れないと思って意識して書いたので気づいて頂けて感激です……!!これからも更新頑張ります〜! (2019年12月26日 21時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もゆう | 作成日時:2019年6月9日 18時