裏切り ページ12
「僕は熱気球に乗った事があってね、そこで見た景色は今でも忘れられない!他にも真っ暗闇に潜むドラゴンを退治したり、ある秘境で見つけた燃え盛る湖にだって行ったんだ!」
目を少年のように輝かせてキラキラとその口から放たれる言葉や世界は本当に魔法だと思った。
だって聞いただけでこんなに胸が踊るなんて。
いつも一人ぼっちだった私に話し掛けてくれたのを忘れていないわ。あの時はなんて優しい方なんだろうと思ったの。
「君にとっておきの楽しい話があるんだ。」
そう笑った貴方の口から紡ぎ出る世界は本当に美しかった。
あのままで良かった。あのままが良かった。
「なら君は気付くべきじゃなかった。」
「…気付くつもりは無かったんですよ。でも、ホラ、嘘っていつかバレるもの。神様がお許しにならないから。」
「神なんていないよ。現に僕は1度だって会っちゃいない。」
話をする時とは違って光の無い目でそう呟く。
あっという間に私の足首と手首を拘束した上に床に転がすなんて、流石は元軍人ですね。
そう言うと裏手て頬を撫でられた。
ぞわりぞわりと肌が粟立つ。
「…君は、僕を認めてくれると思ったんだ。ただの箱入り娘だから、世界を知らないから…。」
「……。」
「こんなに汚い現実よりも、楽しくて美しい幻想を見ていた方が楽じゃないか?」
「回りくどい、自分を認めて欲しいだけでしょう。私のように無知な者を利用して。」
憎々しげに吐き捨てると目を細め、「君は生きていて楽しいかい?」なんて話し始めた。
「僕は楽しくなかったんだ。認められず、大学でだって僕の存在価値は無かった。だけどね、いつだって本だけは僕の味方なんだ。火を吹くドラゴン、燃える湖、沢山の小人。」
虚空を見詰めてブツブツと喋り出す様に寒気がした。
いつまで喋るつもりなんだろう。つまらない妄言を。
「…僕は、僕は冒険家だ。戦場でだって冒険家だった。誰もが僕の話を信じた。それなのに、それなのに。」
ストン、と暗い瞳を下に向ける。
「みんな死んだし、戦争も終わった。僕は浮浪者同然になったんだ。しかも僕を認める人達はみんな消えた。」
グンッ、と胸ぐらを掴み上げられ、顔と顔が近付く。
ヒクッ、と口の端を引き攣らせた様な下手くそな笑顔を浮かべて私に縋る。
「なぁ、俺を、僕を認めてくれ。冒険家だと認めておくれよ。」
そうやって残るのは冷たい軽蔑だけだとこの人は何も学ばなかったんだろうか。
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すぴお - 待って最初の弁護士で腹筋ログアウトしました最高ですアザスありがとうございます応援してます!!! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 5763911021 (このIDを非表示/違反報告)
お豆腐(プロフ) - ちょっとダークな雰囲気で世界観めっちゃすきです!夢主に感情移入しすぎて痛いw (2020年3月4日 1時) (レス) id: 4dd9818095 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 金魚丸さん» どえぇええありがとうございます………………ありがとうございます…………。喜んで書かせていただきます………… (2020年1月26日 19時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
金魚丸(プロフ) - はじめまして…!キャラの特徴だったり世界観だったりとっても大好きです…!新ハンターのアンさんが夢主ちゃんにだけめちゃくちゃ優しい…みたいなお話が見たいです、もしリクエスト受付中であれば是非お願いします!これからも陰ながら応援しています…! (2020年1月26日 15時) (レス) id: 0008ec1201 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 綵宇さん» ぁああありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです……タダでは起き上がらない精神の持ち主じゃないと楽しい荘園ライフを送れないと思って意識して書いたので気づいて頂けて感激です……!!これからも更新頑張ります〜! (2019年12月26日 21時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もゆう | 作成日時:2019年6月9日 18時