家族*キングスマン* ページ19
「なんて惨いことを…。彼は今一般人も同然ですよ、一体何を考えているんですか?」
「記憶を甦らせるには強いトラウマやショックが必要なの。…残念ながら何も起こらなかったみたいだけど。」
未だ咳き込む彼を見て「だからって溺れかけるまでやらなくてもいいじゃない」と呟き、少しだけ眉をひそめる彼女。
不安げに泳ぐ目が一層潤んできたのを見て、この人達も限界なんだと悟った。
当の本人も家に帰りたいと呟いているし、もはや打つ手は無い。
「彼を帰しましょう。」
痛む気持ちを押し殺してそう伝えると、無念そうに俯くマーリン。
Aは頭を抱えてついにはその場にしゃがみ込んでしまう。
微かに嗚咽が聞こえた。
「嫌だ。」
机に突っ伏した彼女がようやく口を開いた。
せっせと荷造りを進める彼を横目に「何がだ。」と聞けば、ゆっくりと顔を此方に向けて再度口を開く。
「…彼を帰してしまうのが、嫌だ。」
「…仕方がないだろう。彼の記憶が戻る見込みは無い。」
「冷たいね。…私の知らないハリーだったよ。たかが水であんなにもがいて、パニックになってさ…。最初に会った時の彼の目を見た?私を見て怯えてた。」
「…A、」
「ハリーを見る度にずっと後悔してるんだ。彼にお礼を伝えられる時は沢山あったはずなのに、私、彼は死なないんだと思い込んで…」
ズ、と鼻を啜りながら上擦った声で話し続けていた彼女が「ずっと一緒に居られると思っていた。」と言った瞬間、堰を切ったように泣き出す。
「…エグジーが帰って来るまでに泣き止むんだ。良いね。」
そう伝え、部屋から出る。
ドアを閉めた瞬間に咽び泣く様な声が聞こえた。
「やぁ、A。」
椅子を蹴飛ばしながら後退りする彼女が怒りと焦りを含んだ声で「マーリン!」と叫ぶ。
「泣き止むまで部屋には入れないでと言ったのに!」
「A、君は最後まで私の記憶が戻ると信じていた様だね。ありがとう。」
「…いえ、ガラハッド。…ごめんなさい、まだ全然、涙がと、とまらなくって…。」
誤魔化すように笑い、若干しゃっくりの混ざった声で喋る彼女の言葉をからかうようにエグジーが割って入る。
「ガラハッド?さっきまではハリーって呼んでたクセに。」
「エグジー!!」
「本当か?」
「いいえまさかガラハッド。私がそんな…」
「確かに呼んでいた。」
マーリン!!と再度彼女の怒号が響く。
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岡P(プロフ) - 初めて読ませて頂きました。どのお話もとても面白く楽しませてもらいました。これからも素敵な作品楽しみにしています。 (2022年3月9日 21時) (レス) id: eaa010ae17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もゆう | 作成日時:2020年4月30日 21時