【企画小説】忘却の街.third (ページ37)

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134:緑竜の甘く温かい夢ページ37

(ラディウスフィアside)

『……綺麗だ…………』

目をきらきらと輝かせた彼がいる。
懐かしい。この時私は、耳を疑ったんだったな。

これは初めて出逢った日の夢だ。――2人の運命の日。

この頃の彼はまだ背だって低かった。
まさかあれ程伸びるだなんて、人間の成長速度には驚かされる。
まあドラゴンの私からすれば、どちらも小さい事に変わりはないのだが。

『人の子よ、正気か？』

『いや、その……こ、声に出ていたか……？』

そう言って顔を真っ赤にするのを見て、私は幻覚でも見ておるのかと思ったものだ。

『大人に言われていないのか？此処に近づいてはいけないと』

『悪かった……でっでもさ！そんなに危険じゃないんだろう？俺知ってるんだからな、新しくなった領主が此処に1人で来た事』

私がこの森を住処にする代わり、森の魔物などが人の集落を襲う事を、出来るだけ抑えるという約束だった。
そして領主が新しくなる度に、私の所へ来て、怯えながらその約束を結ぶのだ。

『しかしその領主は怯えておったであろう？』

『ああ、俺はそれもあって来たくなったんだ。……でも、君はこんなにも優しげで美しいのに、なぜ怯えていたんだろう？』

……ああ、そうだった。
彼はこういう所があるのだ。
美しいだとか何だとか……恥ずかしくなるような口説き文句を、さらりと言ってのける。

しかも、この曇りのない純粋な目で……。

大体、ドラゴンに対して『優しげ』だなんて、ふざけているとしか思えないぞ。
彼の感性はどうかしておる。

…………まあ、私は嬉しいのだが、な。

『君の名前を教えてくれないか？俺は――』

音が段々と遠くなる。

ああ待っておくれ、目覚めたくない。
まだ見ていたいのだ。

この身が溶けるほど、甘く温かい記憶に、浸らせておくれ――。