【企画小説】忘却の街.third (ページ31)

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128:緑竜は逆らわないページ31

(ラディウスフィアside)

瞼越しに光を感じる。
暖かい。
どこからか、風が吹いているようだ。

なんだかぼんやりとしていて、上手く思考が働かない――。

――ああ、そうだ。思い出してきた。

私は死んだのだ。
暗く湿った、冷たい洞窟の奥深くで。

それならば、ここはいわゆる『あの世』か……？

そういえば、私の心臓は、ちゃんと彼に届けられただろうか。

…………いや、もしも彼奴の言葉が嘘だったとしたら。
彼は、生き延びているであろうか。
彼は、私の事を忘れてくれているであろうか。

彼の幸福を祈りたいが……私が祈ったところで、何かが変わるわけもなし。

世界は常に、大きな流れに乗っているのだから。

聖職者に言わせるならば、『神の御導き』か。
殆どの者は、それに飲み込まれていくだけだ。私も然り。

そして残りの僅かな者は、勇者とでも呼べばよい。
流れに逆らい望んだ結果を得られる者は、きっと勇者なのだから。

たとえどんな悪事を働こうと、勇者なのだから。

頭が少しずつ冴えてくると、私はある事に気付く。

翼の付け根の辺りが、熱い。
これは魔力切れの症状だ。

ドラゴンという種族はその巨大さ故、魔力を用いなければ長くは飛べない。
だから魔力切れに気付かずに飛ぶ事を防ぐため、この症状が出る。

しかし、なぜ……？
魔法など空間魔法を稀に使う程度だし、飛ぶ事に関してならば、最近は飛んですらいない。

ん……？

翼の熱さに紛れていて気付かなかったが……胸の辺りが酷く痛む。
この感じ……血が出ているのかもしれない。

さて、どうしたものか。体が重くて動かないな。

とりあえず、重たい瞼をなんとか開ける。

――あれは、街…………？

低い所に建物の並びが見える。
おそらく私は、丘か崖にでもいるのだろう。
人影も疎らに見えて、少し安心した。

意識が遠退いていくけれど、これなら何者かが見つけてくれるかもしれない。
見つけた上でドラゴンを手当てするとは思えないが……まあ、何をされてもよい。

全ての者の意思や行動は、私ごときに邪魔されてよいものではないのだから――。