検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:16,346 hit

Existence1 ページ1

_



「いやあ、流石は森先生。
切り口が綺麗だったので縫合が楽でしたよ」



マスクを外した口元は堪えきれない笑みに溢れていた。手袋を外せば、男にしては細くしなやかな手が顕になった。



「……“切り口”とは何の事だい?」



射殺すような視線に腹の底が冷えるような声。普通はその様子に圧倒され、言葉を引っ込めるのだろう、普通ならば。



「御自分のなさったことをお忘れで? 先代首領を殺したのは貴方でしょう、森先生?」



射殺すような視線は痒くも痛くも無い。
現ポートマフィア首領に無礼を働いて、始末されることになったとしても____
森への恐怖は微塵も生まれないだろう。



「なーんてね、冗談です。
首領が変わろうが、ポートマフィアの趨勢なんて興味ありませんし」



胡散臭い笑顔を貼り付けたまま、てきぱきと後片付け(・・・・)を進めていく。棚に並べた器具や薬品の瓶がぶつかり、かちゃん、と音が鳴った。



「私が何故君を呼んだか、分かるかい?」



「わかりませーん。興味ありませーん」



「真面目に答えなさい」



青年はやれやれと呆れた様子で金色の瞳を細めた。



「先代派に情報を流す為の()が必要だから。
囮ごと先代派も潰せたら? 証拠隠滅。先代首領が殺された、なんて誰も思わない」



そして、と彼は続ける。



「畏怖の念を与え、組織内の統率は取りやすくなる。迅速かつ効率的に新生ポートマフィアの出来上がり。ああ、怖い怖い」



怖いのは君の方だ、と喉元まで迫っていた言葉を飲み込んだ。優れた、否、恐ろしい程の洞察力。



そこまで判っているのなら、何故____



「なぁに変な顔してるんですか。
貴方が答えろって云ったんでしょーよ。
大体……」



ガチャ、と扉が開く音。誰が此処に訪れるというのだろう。青年は言葉を(つぐ)んだ。



森は先代首領の殺害、青年は証拠隠滅。
扉の向こうにいる者が先代派だとしたら、森は躊躇なく殺すかもしれない。
そうすれば、また証拠隠滅をしなければならない。



必要以上の仕事(・・)は御免(こうむ)りたい。青年の仕事は見かけ以上に体力と精神力を消耗する。



扉の影からひょいと現れたのは、黒い蓬髪に白い包帯、大きすぎる外套を羽織った、痩せた少年。



青年は乾いた笑顔で森を一瞥し、一言。



「守備範囲、広げたんですね」



_

Existence2→


一言日記

髪伸びてきたな、自分で切ろうかな。


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (81 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
125人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

歌恋 - 続きが楽しみです!お話が自分の性癖にドストライクでした… (12月31日 20時) (レス) @page13 id: 48a7de9cc2 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 姫歌さん» 姫ちゃんお久しぶりです! ありがとう! 色々落ち着いたからまた細々更新していきます〜! (2019年8月14日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - おひさしぶりです。相変わらず最高でした! (2019年8月3日 18時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
Ashar(プロフ) - 小太刀さん» わぁい! ありがとうございます!! (2019年6月2日 17時) (レス) id: 1b24626048 (このIDを非表示/違反報告)
小太刀 - え、かっこいい好き (2019年6月2日 14時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Ashar | 作成日時:2019年6月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。