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校庭を照らす灯だけが眩しい夜空の下でひとつ、白い息を吐いた。吹き抜ける風はさすがに寒くて、部活の後だろうが末端を冷やしていく。
『あ、晃樹居た!』
そう言いながら俺のところまで来たAは可愛くラッピングされた袋を渡してきた。え、と声を漏らすとAはニコッと笑って
『はいこれ!今日はバレンタインだしね。寒い中練習頑張ってたご褒美的な!』
と言った。辺りを見回すと、同じようなものを持ってる部員たち。なーんだ、とは思ったものの素直に嬉しかったので「ありがとう」と伝えた。すると今度は少し恥ずかしそうに俯きながら『あ、あとさ…』と言葉を探し始めたAに、ぐ、と心が痛んだ。
『…須貝先輩、まだいるかな、』
考えてることなんて、もう分かってしまった。
先輩がまだ学校にいることは、知ってる。以前ばったり会った時にそんな話をしたから。
もし今、俺が、もう帰ったんじゃないって言ったら。渡さない方がいいんじゃないって言ったら。その渡すつもりだったチョコは誰の手に渡るんだろうか。
そんなんで貰ったって嬉しくないし、と「まだ居るんじゃない」なんて告げて。『ありがと!』と嬉しそうに笑ったAは早々にグラウンドからは消えて、それと入れ違うように部活仲間が近づいてきた。
「あれ、乾が貰ってんのなんか俺らと違くね?」
「…どーせランダムなんでしょ」
あの人に渡してるチョコが、特別なやつじゃなければいいな、なんて。受け取った手作りのチョコを見ながら、そう思うだけだった。
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「…何これ」
『チョコ』
「誰の」
『私が買ってきた』
「……明日槍でも降るの?」
『シバくぞ?』
世の中は甘い香りで満ちてるはず。ギリ生徒会室も順応できたかな、と個包装のチョコを手に取りながら考える。
『…まぁ、今日バレンタインだし。日頃の労いの意味も込めてね』
半分以上は私の為だなんて言えないけど。口にチョコを投げ入れた。手作りじゃねーのかよ、なんて聞こえたけど、それこそ私がするとでも?別に市販だっていいじゃない美味しいんだし。
『…味は保証するよ』
「お前が言うな」
甘いチョコと目の前のタスクは…うん。なんだか合わないな。
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作者名:Ruka | 作成日時:2021年5月16日 0時