【Q.K】if... ,【短編集】 (ページ22)

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聖なる夜、君と2人＿kwmr ページ22

｢……あの、｣

『…………』

｢…Aさん｣

『…………』

｢なにやってるんですか｣

『拓哉さんのほっぺをもちもちしてます』

｢だからなんで｣

時はほんの数分前に遡る。
なんと言っても今日は12月25日。しかも今年は運が良いことにもう冬休みに入っている。日頃は部活なりなんなりで忙しい僕らも、聖夜くらい一緒に過ごすことにした。僕の家に招き入れて。

およそ数ヶ月ぶりに僕の家の玄関に訪れた彼女は、毎朝見てた緑のマフラーに顔を埋めながらやってきた。ドアを開けると、相変わらず緊張した様子で｢ｵｼﾞｬﾏｼﾏｽ…｣と言いながら靴を脱ぐ。
気を利かせたのか知らないが、両親は2人揃ってどこかへ出かけた。初めて彼女を僕の部屋以外に通した。良くも悪くも、本当に2人きり。自分の家だと言うのに、彼女と2人きりというだけで僕まで緊張してきた。

家の中を仕切るドアをくぐる度に｢ｵｼﾞｬﾏｼﾏｽ｣と言う彼女をリビングへと案内して、僕はキッチンへと向かう。冷蔵庫を開けると、用意していたジュースと見知らぬ箱があった。見るに、近くの菓子店のものだ。両親に感謝しながらその箱も手に取る。リビングに戻ると、彼女は既に借りてきたDVDを手に持ち、今か今かと僕の事を待っていた。

｢それ？前気になってたって言ったの｣

『そうです！面白そうじゃないですか！』

｢僕はあまり映画に詳しくないので…まぁでも、楽しみだな｣

この前番組で映画の特集をしていたらしい。普段から映画を見るという彼女が知らないものも勿論沢山あるわけで。110分程のコメディ映画に90分のSFファンタジー映画とアニメ映画。僕にとっては馴染みのない言葉に、クイズによって培われた好奇心がはたらく。僕(と両親)が用意したジュースとケーキ。彼女が用意した映画と少しのお菓子。

これから、僕らのクリスマスが始まる。

.

笑ったり、(僕は違うが)泣いたり、息を飲むほどハラハラしたり、手を握り込むほどドキドキしたり。
僕が最後に観た映画はなんだか、いつの話だかも覚えてないが、案外楽しいものだと気付いた。
ジュースが入っていた瓶も空に近づいて、ケーキを乗せた皿はもうフォークしか乗っていない。
彼女が用意してくれた映画三本を見ても、時刻はまだ15時を少し過ぎたあたり。解散するにはまだ早い。要するに、手持ち無沙汰になってしまったわけだった。