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10時ころにお邪魔して、お昼もご馳走してもらって、気がついたらもう日が傾き始めていた。暮れるのが早い。そろそろ帰らなきゃかな、なんて話が出始めて、私は今まで楽しすぎて忘れていたことをひとつ思い出す。
『あっ、のさ、』
「ん?」
『……えと、』
正直、渡そうか迷った。でも、せっかく用意したのに渡さないのは、嫌だったから。笑われるかとも思ったけど、意を決して、鞄に入ってた箱を取り出す。
『これ、一応、誕生日プレゼント、というか…』
「………、」
静かに箱を受け取った。反応を伺おうとして顔を上げると目が合った。開けていい?と聞かれて、こくりと頷く。
選んだのは、シックな長財布。私服や小物が意外と可愛らしいことがあるから、デザインはどうしようかと思ったけど、今使ってる彼の財布はだいぶ長い間使ってるように見えて、好きやデザインなのかな、と思って似たようなデザインにした。
デコレーションされたリボンを解いて、箱を開けて、その財布を取り出して、まじまじと見つめる。嬉しくなかったかな、そもそも誕生日じゃないのでは…とか不安が飛び交ったけど、ずっと見つめてた自分の拳が包まれて、はっと顔を上げる。
「ありがとう。すごい、嬉しいよ」
なんて、すごく幸せそうに笑ってくれたから、割と奮発して買った甲斐があった。強ばってた体から力が抜けていって、自然と手は繋がれた。
『好みじゃないとか思って…でも気に入ってくれてよかった』
「恋人からの贈り物な上にすごい好きなデザイン。寧ろなんでここまでジャストなのか分かんないんだけど」
『彼女の実力ってやつですよ』
良かった、大成功だ。
安心しながら繋いだ手からの温もりを堪能していたら落とされた、爆弾発言。
「まぁ今日誕生日じゃないけど」
『………えっ』
さっきの温もりが嘘みたいに消え去って、違う熱が募ってく。私知ってる。これ、羞恥だ。
『え、あ、』
「……まぁ」
手を繋ぐ程度の距離が、ぐっと縮まって、ふっと顔に影がさして、彼との距離が無くなった。
そっと口づけされた唇が、状況を理解し始めた脳が、顔が、頬が、どんどん赤くなっていって。する、と頬を撫でられる。彼の手は、冷たかった。
「今日が誕生日でも、いいかもしれないな」
もう一度、静かなキスをした。
本当の誕生日は、きっとこれ以上に甘い一日を。
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作者名:Ruka | 作成日時:2021年5月16日 0時