【Q.K】if... ,【短編集】

1年に2つの約束を＿kwmr ページ17

 

『ん〜……』


皆さん1度は書いたことがあるだろう、自己紹介カード。
入学初日に書いて以降、教室の後ろの壁に名簿順で貼られたそれらのうちの1枚を眺めながら、私は首を捻るのだった。

氏名 河村 拓哉
誕生日  11月7日
マイブーム  嘘

なんだこれは？？？

他の人は、マイブームのところに｢お菓子作り｣と書いたり、好きなアーティストの名前や好きな作家の名前やゲームの名前を書いたりしているのに。なに、マイブーム嘘って何？

困った私は全ての情報を疑うところから始めた。

さすがに名前は嘘ではないだろう。学校にはしっかりとした書類を出しているはずだし、みんなきちんと｢河村｣と呼んでいる。
好きな教科が理科というのも本当らしかった。私が頭を抱えるとすぐに教えてくれるし。その調子で実験結果を実験の前に教えてくるのはどうかと思うけれど。
しかし、漢字が苦手だというのはどうも嘘らしい。一度は彼の上に立ってみたくて、帰り道で漢字の読みクイズを出したら瞬殺された。｢櫺｣なんて、そんな簡単に読めるものではないと思うんだけれど。あんなに頑張って漢字辞典を探ったというのに。

そして、最大の謎は誕生日だった。｢11月7日｣と綺麗な文字で書かれているが、その横には例のマイブームの欄だ。これに関しては先生にも聞きようがないし。未だ分かってないのは、恋仲になってからも変わらなかった。聞いても｢後ろに貼ってある紙を見れば分かるでしょ｣としか言われないし、嘘なのかと問われれば｢嘘かもしれないですね｣と言われる。主語がないし、もう分からない。


『…でもこれが本当だったら嘘なんてつかないし……うーん、河村拓哉のパラドックスだ』

｢僕はクレタ人ではなくて純日本人だけど。それに、マイブームが嘘だと言ってるだけできちんと本当のことも言うよ｣

『うわー、論理クイズに出てくる悪魔よりもタチ悪い。あいつは嘘しかつかないから逆に単純』

｢ここまで言われたのは初めてだな。まぁ人間ですから｣


紙に書かれた日付まではもう1週間もない。
もう一度彼を見ると、｢さぁ、どうでしょう？｣と楽しそうに笑った。

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