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…とは言いつつも。
この大作戦が難しいことは端から分かりきっていたはずで。
こうしてあげようかな、とか沢山考えてたのにそれは儚く散っていくわけで…
彼女との帰り道、はぁ、と短く息を吐いた。
『どうしたの?』
「…あ、うん。全然平気」
『そう…なんかあったら直ぐに言ってね?』
「うん、ありがと」
目の前の貴方が原因です。なんて言えるはずもなく。まぁ、実際に彼女は何も悪くないし…
家の場所が違うため、僕は歩きだが彼女は駅まで行って電車に乗る。家を少し過ぎたところにあるその駅まで、ちょっとだけ遠回りして帰るのがいつもの事になっていた。車通りの少ない裏道を通るのでちょっと広がっても大丈夫。2人で並んで歩く。
今日、化学の先生がすべった話とか、古典がやっぱり難しいとか、部活で綺麗にブロックがきまったとか、僕は先輩に押し勝てたとか、そんな他愛もない話をして。でもそれがなんとも言えぬ心地良さがあって。駅までの道程なんて毎日あっという間だった。
彼女の楽しそうな話を聞いてると、ふと、前から自転車が来るのが見えた。何故か歩道を走っている。片手にはスマホ。このまま進めば彼女とぶつかってしまうのは明らかで、でも誰も動こうとしない、気付いてない。
「っ危ない!」
『う、わっ』
反射的に彼女の肩を抱き寄せる。僕の声で気が付いたのか、さっとスマホをカゴに投げ入れて、自転車は謝りもせずに去っていった。
「大丈夫だった?」
『あ、うん…ありがと』
彼女の方に怪我はなかったようだ。良かった、事故にならなくて。目の前の大切な人さえも守れないなんて、そんなのは彼氏として失格だから。
そう思っていたけれど、彼女は何も喋らない。もしかして気がついてないだけでどこか怪我してしまったのだろうか?と心配になって、下を向く顔を覗き込む。
「…ほんとに大丈夫?」
『……うん、大丈夫、なんだけど』
「…けど?」
『……や、今の山本くんかっこよかったなぁ、って思って』
あー違うの、や、違くないけど、と顔を赤くしてそっぽを向いてしまうAさんは、やっぱりすごく可愛くて。あぁだから、僕の彼女はこんなにも可愛い人なんだよ。でもちょっと、その顔は、誰にも見せたくないかな。
_かくして、僕の「かっこいいと思わせる大作戦」は、素敵な結果を残して幕を閉じたのだった。
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作者名:Ruka | 作成日時:2021年5月16日 0時