人喰い道化師のマーチ【小説Ver】 (ページ4)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:4,282 hit

No.3【新国千哉】ページ4

「だれか！助けて！」

必死に走りながら少ない酸素を総動員させて、叫び声を上げる男(食料)。全く無様なことだ。

ほら、叫んだりするから転んでるじゃないか。泥にまみれて転んだ男に。ナイフを伸ばす。

「いやだ、いやだいやだいやだぁ！！」

うるさいな。誰か来たらどうするんだ？また被害者(食料)が増えるだけだと言うのに。

「そもそもこの世に、助けなんて無いのに」

その時だった。

ゴリギリ、ガリグラ、ゴリギリ、ガリグラ

そんな形容しがたい禍々しい音が、背後から聞こえてくる。辺りに声が響いた。

「否(聞こえたぞ)。否(助けは来る)。肯定(さぁ、始めよう)」

不思議な感覚。二人いるのかと思ったが、気配はどう考えても一人分。何らかの方法でそんな喋り方をしていると判断する。

いつの間にか男(食料)は逃げたようだ。まぁいい。今は目の前の偽善者をどうにかしなければ。

武器は手に持った釘付きの金属バット。土を削りながら引きずって来たことを考えると、かなりの重量だろう。速くは動けないはず。

ならば、先手必勝か。

「諸行無常(たかが知れたこと)。有象無象(記憶に留める価値も無し)。悪即斬(行くぞ、相棒)。
皮肉骨髄、区別無く──!(皮肉骨髄、区別無く──!)」

「この偽善者がぁ！！」

喋ってくれている間に、ナイフで切りかかる。あぁ、どいつもこいつも反吐が出る！

ナイフを止めたのは金属バット。流石に黙って切られるつもりは無いらしい。

ガィン、ギァン、ギャリ、ギャリリ

刃で打つ。刃で薙ぐ。横薙ぎに、切ろうとする。

その全てが、止められる。

傷一つつかないどころか、ナイフが削られていく。

「あ、あああああ！！」

叫ぶ。助けを求めるように叫ぶ。誰か、誰か助けてくれ。もう、終わりに──

後ろに下がり、ナイフを下ろす。

「この世に、助けはあるんだろ？なら、助けてくれよ……」

情けない声が出る。ありったけの酸素を使ったつもりだったのだが。

「無論(あぁ、聞き届けた)」

その声とともに、意識も命も、途絶えた。

一人の男が、肉塊に向かって祈る。

「赦せ(こうなるまで、救えなかった)。赦すな(恨んでも構わん)。赦してくれ(今はただ、身勝手にも)。
お前を、赦そう(お前を、赦そう)」

この世には赦しが、救いがある。

さぁ、道化師(被害者)にくれてやろう。

救えなかった、道化師(被験者達)よ。