ポイズン・モンシェリ

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「はい、これ飲み。」

『ありがとうございます！』

黒のマグカップに茶色いココア。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「昨日かなり酔ってたけど、しんどくない？」

『おかげさまで、』

「はは、若い子は違うなー」

マグカップを手に取る。
温かい。

「Aに黒のカップは違和感あるなあ」

『そうですか！？』

「うん。ピンクとか薄紫とか、可愛らしいやつが似合う」

『そんな！』

「それしかなくて、ごめんな」

『いや…全然！』

驚いたなあ、
だって、紫耀さんだもん

女の人用のカップくらいたくさんありそうなのに。

「そういえば、お皿とかも全然ないわ」

『なんだか、意外です』

「うーん。引っ越す時にいらんもんは全部捨てたからなあ」

そう言って、笑った。
よく見ると、確かにこの部屋は妙に殺風景だ。

そんな事を思いながら、ココアを口に運ぶと
ふわりと甘い味が広がって。
……なんだかすごく懐かしい感じがする。

「美味しい？」

『はい、とっても』

「他、なんか食べたいもんとかある？」

『……マシュマロ』

「マシュマロ？」

『昔、よくココアに入れたなあって思って』

「ココアにマシュマロ？めっちゃ甘くない？」

『甘いけど、美味しくて…』

「ははは、そっか。甘い物好き？」

『だいすきです』

「そっか！実はコーヒーもあってんけど、ココアにして良かったわ」

紫耀さんはコーヒーが飲めるような大人な女性が好きだろうか？

一度飲んだ事があったが、コーヒーは苦くて。
どうしても好きになれなかった。

「…他は？」

『え！？』

「Aが好きな物、全部教えて」

『…っ、』

「海老とココアとマシュマロ！
その他には？」

『……いちごのキャンディ、』

「おお！」

『アロマと、後は…花？』

「花？」

『薔薇が、好きです』

「薔薇かあ、」

紫耀さんが優しく呟いた。
なんて幸せなのだろうと、思った。

好きな物は他にもたくさんある。

でも、
一番好きなのは、紫耀さんだよ。

そう言おうとしてやめた。

「シャワー浴びる？」

『…え？』

「昨日、お風呂入れてないやろ？」

紫耀さんの家のお風呂、
なんだかいいなあ…

付き合ってるみたいで。

『入ります』

「おっけー、ここ出て右な」

ソファに座った紫耀さんが、
ノートパソコンを開いた。

『お仕事、頑張ってください』

聞かれても恥ずかしいだけだ。
そう思い、小さな声で呟いた。

だが、紫耀さんは「ありがとう。」
と目尻を下げて言った。




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