ポイズン・モンシェリ

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ふわふわしている。
甘い香りに包まれている。

幸せな夢を見ている。
まだ目を覚ましたくないと、
必死に何かにしがみ付く。

そこから感じる温もりは、幻なのか、現実なのか。

『……ん、』

目が覚めると、きっと一人だ。
目を固く瞑り、ぎゅーっと力を強める。

「…あれ？起きてる？」

大好きな声がする。
きっと幻だ。幻聴だ。

「おーい、寝たふり？
めっちゃ可愛いけど、痛い！強い！」

パチリ、目を開く。

『……え？』

「おはよう。」

ニッコリと笑った紫耀さんが、私を見下ろしている。
そして、私はその腕の中にいた。

『ええええ？え？』

あまりに驚いて、紫耀さんの腕から抜け出す。

「朝から元気やなー」

キョロキョロと辺りを見渡す。

見たことのない本棚に見たことのない空気清浄機。

「挙動不審。かーわい」

『……』

…え？
慌ててシーツの中に潜り込む。

すると、上からくすくすと笑い声が聞こえた。

「ここ、俺のマンション。」

『ま、マンション…？！』

「昨日酔って、俺の会社まで来てんで」

『…嘘！』

「ほんま！どんだけ俺の事好きなん」

『…っ、』

昨日の事を思い出そうと頭を回す。
それでも思い出せなくて…

シーツの間からヒョコっと顔を覗かせる。
また、優しい目の紫耀さんと目があって、恥ずかしい。

『…運んでくれたんですか？』

「運んだ運んだー
そしたら、めっちゃスヤスヤ寝てるから」

『…すいません』

「仕事あったのに、一緒に寝ちゃったやん！」

『ええ、ごめんなさい！』

ガバッとシーツから起き上がり、頭を下げる。

すると、次はお腹を抱えて笑い始めた。

「謝らんといて、
久々にちゃんと寝れて俺も良かったから」

頭をぽんっと叩かれ、
顔をあげる。

同じ部屋の、同じベッドで
同じ朝を迎えられた事に幸せを感じる。

そういえば、昨日、永瀬さんが
全てを捨てて無償の愛を手に入れたと言っていた。

でも、やっぱり私はそうは思えなかった。

全てを捨てて得られるものは、自由しかないと思う。

『しょーさん、』

「ん？」

『……だいすき』

「はは、ありがとう」

だって、全てを捨ててしまえば
紫耀さんはきっと私なんかに見向きもしない。

'' 一条 ''という肩書きのない私は、
それほどの価値しかないのだ。

紫耀さんを失う事は、全てを失う事より怖い。

そんな事言ったら、永瀬さんはなんと言うのだろうか。

幸せそうな笑顔が脳裏に浮かんで、
どうしようもない劣等感を感じた。




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