虚像の大鷲 ページ7
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私たちの間の微妙な空気を悟ってか、天童くんと牛島くんがコチラに駆け寄って来た。心なしか、牛島くんの表情が来た時よりも穏やかだ。その手にはこの店オリジナル商品のレトルトハヤシライスがしっかり握られている。
「な〜に、賢二郎、俺らが居ない間にお姉さんナンパしてんの〜?」
「違います」
天童くんは相変わらずおちゃらけた喋り方で、白布くんの頬を愉しそうにつつく。
触れてくれるな、と言いたげに白布くんは彼の手を叩き落とした。先輩にも容赦が無い。
二人のやり取りを蚊帳の外の牛島くんと傍観していると、不意に思い出したように天童くんがこちらを向いた。
「そーだコレコレ!お姉さん、この店ってラッピングお願い出来たりする?」
「勿論。承りますよ」
ヤッタネ!と彼はにんまり笑って私に商品を差し出す。受け取ったのは、秋桜(コスモス)の香りがするハンドクリームと、店オリジナル桜味クッキーの詰め合わせ、そして日向夏柄のタオル。物の見事に季節感がバラバラだ。まあ、選んだのは奇想天外が服を着て歩いているような彼だから、と変に納得してしまったのが本音だが。
「ではお会計をお願いします」
レジへと小走りで向かい、ピ、ピ、と商品をスキャンしていく。天童くんものそのそ歩いて来て、ゴソゴソと鞄から財布を取り出す。と、同時に彼の後ろで(若干ではあるが)しゅんとして元気の無い牛島くんに「若利くん、さっきからそれ持ってどーしたの?欲しいなら買えばいいジャン」なんて話しかけている。
どちらかと言えば先程まで牛島くんはハヤシライスを手に目を輝かせていた気がするのだが、なぜ落ち込んでるのだろう?目線を上げれば、天童くんの言った通り眉尻が少々下がった牛島くんが目に入った。さながらボールをくわえて主人を待つ子犬の様である。
断じて彼は小さくなど無いが。
「…財布を、寮に忘れてしまった」
言い終わるや否や、彼は今度はあからさまに悲しそうな顔をして床を見つめる。あれだ、例えるなら目の前におやつがあるのに、お預けをくらってしょげているポメラニアン。
だめだ、もう子犬にしか見えない。
「…イイよ、俺が一緒に払うからお姉さんにそれ渡しなヨ、若利くん」
持ち合わせあったかな〜、なんて財布を広げる天童くんの後ろで、牛島くんは(無表情のまま)花を飛ばす勢いで喜んでいる。
そんな彼を数歩離れた所で母親さながらに見つめている白布くんを見たら、もう苦笑いしか出来なかった。
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作者名:ヤマト | 作成日時:2020年3月4日 3時