薬屋は傾国美女でした。六巻 (ページ25)

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275話ページ25

Aはその後も迷い無く進んで行く。

　そして最後、看板に書かれているものは『汝(なんじ)、赤い扉をえらべ』だ。

　しかし、扉は白、黒、緑の三つしかない。

壬氏(ジンシ)「どういうことだ？」

　困惑するのも仕方がない。

　目の前には赤の扉など無いのだから。

A「緑の扉です。」

　Aはまたもや迷い無く緑の扉を指差す。

　壬氏(ジンシ)もためらいなくAの言葉を信じ、緑の扉を開く。

　すると廊下が現れ、その先に階段が見える。

　かつかつと音を立てながら階段を上っていき、その先にある扉を開けると、びゅうっとぬるい風が吹き抜けた。

　廟(びょう)の屋上に出た。

　後宮全体を見渡せる高い位置にある。四角く作られた空間は、まるで下々を見渡すような、そんな気高い造りをしていた。

　老宦官が唇を歪(ゆが)めている。

　笑っているのか、歯をむき出しているのかわからない。

老師(せんせい)「おめでとうございます。正しき道を選んだようで」

　老宦官はそっと周りを見渡す。

老師(せんせい)「その昔、王母に認められた者は、次の王となりました。いつしか名称は、帝といわれるようになりました」

　代々、選ばれた者の最初の仕事は、この廟(びょう)から演説することだった。

　当時の建築技術を考えると、これより高い建物は建っていなかっただろう。

老師(せんせい)「時に、誰もこの道を選ぶことができない場合もありました。そのときは、正しき道を選ぶ妃を連れて、再度やってきたということです」

　そして悔しそうに老宦官はAを見る。

老師(せんせい)「本来、その正しき血を受け継ぐ者がそれを成すわけですが、どうも違う者が当ててしまったようで」

　老宦官はAが当てたことが、不愉快であるらしい。

A「(挑発に乗って当ててやったらこの顔か、、よくわからないな)」

帝「それより、どういうことか余にわかるように説明してもらえぬか？」

老師(せんせい)「主上ともあろう御方が私に教えを乞(こ)うというのですか？」

　帝は挑発に乗るほど短気ではなく、壬氏(ジンシ)も眉を動かす程度だ。

老師(せんせい)「私の口から言うべきことではありません。そちらの娘に聞いてはいかがかと」

　そう言ってAに投げてよこした。