薬屋は傾国美女でした。六巻 (ページ19)

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269話ページ19

暗闇の中、行燈(あんどん)の光を頼りに後宮の北側へと移動する。

　帝のほか、いつも護衛としてついている宦官が二人と、それから壬氏(ジンシ)たちも呼び出されたようだ。

　壬氏(ジンシ)もまた、急に呼び出されたらしく、少しいぶかしげな表情をしている。

A「(一体なにをなさるのやら)」

　人通りが少ない北側は、夜になるとさらに静まりかえっていた。草むらや木陰で不健全な愛を語り合っていないようなのでほっとする。

　廟(びょう)にたどり着くと、すでに待ち構えている人物がいた。

　昼間見た老師(せんせい)だ。

老師(せんせい)「お待ちしておりました」

　恭(うやうや)しく頭を下げる老宦官。

　帝は自慢の髭(ひげ)を撫(な)でながら、こくりと頷(うなず)いた。

帝「もう一度、余がここを通ってもいいのかな」

老師(せんせい)「何度来られても同じことかもしれませぬよ」

　どこか挑発するような老宦官の言葉にAはひやひやする。

　帝は髭(ひげ)を触りながら怒った様子はないが、高順(ガオシュン)やほかの宦官たちはあからさまに不機嫌な顔をしている。

　壬氏(ジンシ)だけは、廟(びょう)をじっと見てなにか考えているようだ。

　老宦官は廟(びょう)の鍵(かぎ)を開けると、中へと帝を誘う。

老師(せんせい)「お付はどなたか必要ですかな？」

　揶揄(やゆ)するように言う老宦官に対して、

帝「では、この二人でいいだろうか？」

　帝は壬氏(ジンシ)とAを交互に見て、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。

A「(どういう意図なのだろう)」

　Aは半眼になりながら、廟(びょう)の中へと入る。

　壬氏(ジンシ)はまだわかる。

　祭祀(さいし)などやっているので、こういう場所には慣(な)れている。

　しかし、Aがついていく意味がわからない。

A「女人禁制ではないのでしょうか」