ただ、縋られたいだけ。【fj】 (ページ6)

今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:8,739 hit

6/ ページ6

.

ホテルのエントランスを抜けて、一室の前

カードを通して扉を開ければすぐそこに彼が居る

「…あれ、」

居る、はずだった

開けばそこにはシンとした部屋だけ

彼の姿が見えない

トイレ？お風呂？

「フジ、くん…？」

名前を呼びながら、少しずつ部屋の奥へ

もしかして、部屋を出た？

いや、私が居ない状態でそんなに動ける筈は

「窓、」

閉まってる

「スペアキー、」

置いてある

「上着は、」

掛けてある

と、言うことは部屋に居る

やっぱり、寝室か

急いで寝室の扉を開けると、ベッドの隅で丸くなる彼が居た

安堵、ただただ早まった鼓動を落ち着かせる

甘い彼の香水の匂いが染み込んだかのような部屋に一歩ずつ

驚かせないように、優しく

「フジくん」

「っ！」

声を掛ければすぐに顔を上げて、私の方へ手を伸ばす

言葉も出せない程に怖がっていて、顔が真っ青だった

「A、何処行って、」

「ごめん、ちょっと外に買い物行ってたんだ。ごめんね、大丈夫」

その手をがっしりと私の背に回して離さない

大袈裟に泣きじゃくる彼を赤子をあやすように

いつもという訳では無いが、事後は感情が昂って居るのかこうなりやすい

それを承知で部屋を抜け出した私も私だが

そんな彼が可愛いとも思ってしまう

「ごめんね、怖かった？」

「こわ、怖かっ…」

涙を誤魔化しもせず私の腕の中で流し続ける

大丈夫だよ、と囁き続ける私を、まだ嗚咽で苦しそうな彼が押し倒す

ああ、また始まった

「無理、だめ、」

「フジくん、」

「駄目、我慢出来ない」

涙に塗れた顔をそっと拭って

光の無いその瞳を見つめ返す

堪えながらも私の服に手を掛ける

彼にとっての承認欲求を満たす物とは、コレなのだ

愛に被さる被虐な妄想

認められたい、愛されたい

好きな人に、私だけに

そう以前訴えて来た彼の目を、私は忘れられないのだ

そしてまた

「シよっか、」

また、同じ事の、繰り返し