ただ、縋られたいだけ。【fj】 (ページ11)

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湯船のお湯が揺れる音に

髪から落ちる雫が波紋する音

水に濡れた体が気持ち良い

「あ、そうだフジくん」

「なに？」

私を脚の間にすっぽりと収めた彼を見上げる

前髪の雫が私に掛からないようにか、それともたまたまか

髪を分ける仕草が色っぽい

「今日はさ、家、帰れる？」

「…かえり、たく」

そこまで言いかけて『ない』とは言えなかったらしい

少しの間を置いて『分からない』と言った

目が暗くなって、唇を噛み締めて

迷子になった、小さい子、みたいな

「そっか、じゃあ私の家行こう」

「え…？」

「家に帰るの、ね？」

私の家だけど、ホテル巡りよりはマシ

そんな非効率な事しなくたって

…私を、頼ればいいのに

「でも、A仕事とか…」

「パソコンとかは持ち歩いてるんでしょ、マイクとかは…まあ今度取りに行こう」

さりげなくでいい

トントン拍子に話を進めて行こう

「でも、」

「一緒に行くから大丈夫だよ」

「そんな、」

「気が済むまで居て良いんだよ」

どうしても否定しようとする彼を抑えるように

変なところで遠慮するから

「…あり、がと」

「配信だって好きにしていいんだよ」

「お、俺はしないっ」

ふふ、と笑いが少し零れたところで雰囲気は戻る

バシャバシャと小学生のように水を弾かせてみれば、顔に掛かった！と喚くフジくん

大きな手で頬を掴まれても、彼は笑ってくれるから

笑ってくれるなら、私は何だって

何だって、できる