【fj】聞こえますか、僕らを呼ぶ雪の音が (ページ3)

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案の定、朝が来ても雪は溶けきれてはいなかった

自転車を駐輪場に停めて、騒がしい昇降口で悴んだ手を息で温める

靴に着いた雪を叩いて、振り返ると丁度上靴に履き替えていた彼女が居た

一瞬固まった俺は、直ぐに頭を振って煩悩を掻き消す

普通に、笑って

「A、おはよ」

『フジくん』

何も伝えられない自分自身に

『おはよう』

程遠い先に居る彼女の心に擦り付く様に

「昨日大丈夫だった？」

『昨日？…ああ、全然大丈夫だよ』

「良かった」

『心配症だね、彼氏みたい』

「なっ…」

おちょくる様な顔はいつも通り

なんの気もない様な仕草で

脈だなんて考え様も無いくらい自然体

でも、今この流れで伝えれば

『…フジくん？』

「…仮にも女の子なんだからさ」

『仮にもってなんだ』

「何でもない！ほら行こ、遅刻する」

また、最悪な一日の始まり方だ

『本当に、話してたらあっという間だね』

「だね、俺ら井戸端会議する年寄りだわ」

『やだそれ』

駆け足で五分前まで隣で話していた彼女は

「お、来た」

『キヨ！』

「A、はよ」

教室に入った途端、俺の事なんて視界の隅も入れずシャットダウンさせて

所謂、幼馴染らしい彼との間に吸い込まれていく

とびきりの笑顔で見上げられたキヨは他には見せないような優しい笑顔で

「フジも、よっ」

「…おはよう、キヨ」

彼女の頭をぽんぽんと撫でながら、俺に顔を向けて笑う

俺には、幼馴染以上の仲に見えてしまうけど

親友と挨拶を軽く済ませて、すぐ様彼女の方に視線を釘付けにされる

『キヨ、私今日来る途中に雪だるま作った』

「ガキか？…あ、したっけさ、帰りもやろうぜ」

『部活は？休み？』

「おう、グランド使えねぇもん」

此奴の横で馬鹿話して笑ってる

『帰りまでに溶けないかな』

「流石に溶けんだろ」

『フジくんも、今日休部日でしょ？やろ！』

「え、あ、…うん」

この複雑な気持ちに気付いてからというもの

何気なかったこの日常風景が繰り広げられる教室は

「…はあ」

溜息さえも白い息に変わってしまう程

外より寒い気がした