お泊まり5 ページ10
「似てるよ」
「似てないよ」
「似てるって」
「似てないってば」
私と私の母が『似てる』『似てない』という台詞をキャッチボールのように、パスをし合うように、50センチの距離感で交わし合った。
「どこが?」
「顔、背格好、話し方、早とちりするところ」
「最後は違う…でしょ…」
「いやいやいや、いやいやいや、一番似てるポイントでしょ」
「それを言うなら岳くんだって早とちりじゃない」
「なんで俺?」
「ともちゃんを私の彼氏と間違うなんて」
暗闇の中で岳くんが私を見ている。
ふたつの目玉が真っ直ぐに私を見つめていた。
「……ヤキモチ、妬いた?」
「……うん」
手を伸ばしたら、触れることができる。
岳くんの熱を感じたい、と思う。
私のことを触って欲しい、と思う。
岳くんが「こっちおいで」と言ったら、私は岳くんのお布団に行く。
でも私は手を伸ばさないし、岳くんは私に「おいで」なんて言わない。
私を熱っぽく見つめるくせに、私だって私の想いを視線に隠せないでいるのに。
眠たくなんかなかったけれど「おやすみなさい」と言ったら、「……すみ」とくぐもった声が聞こえた。
こんなにも距離が近いのに遠くに感じた夜を過ごしたら、目が覚めると何かが変わっているかもしれない。
そんなことを少し思ったけれど、単なる杞憂だ。
岳くんは、相変わらず岳くんで、優しくて素っ気なくて、意地悪。
真顔で冗談を言い、時々天然。
母が用意してくれた朝ごはんを食べて、甘い卵焼きを美味しいです、と口に運んだ。
父が淹れたコーヒーを2杯飲んで、母からは「私が淹れた紅茶もなかなか美味しいのよ。今度、飲みにきてね」と言われていた。
帰りの車中は普通だった。
聖真くんのカーオーディオに入っていたCDを勝手に流し、岳くんは「今、こういうの流行ってんの?」と、私に聞いた。
知らない。
流行りの音楽に疎いもん。
後部座席には母が持たせた手荷物。
缶詰とかカステラとか石鹸、缶ビール。
実家に行って帰る時はいつもこう。
自分の家に近付くにつれ、ホッとした気持ちが生まれる。
そして実家から離れていくにつれ、後ろ髪を引っ張られるような感覚にさいなまれる。
「子供みたいな顔、してる」
岳くんが私をちらっと見て、唇を横に引っ張るようにして微笑んだ。
「今日は、鯖の味噌煮だよ」
「楽しみ」
家までもうすぐ。
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シナノ(プロフ) - まるみかんさん» 私も代理人じゃなくうちの河上を派遣しますよ?と思いました(笑)ネガティブな報道が出ていて真実は解らないですが、早くトレーニングしている姿を見たいですね。今飲んでる生姜の葛湯を飲ませたいなぁ。 (2017年2月15日 20時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
まるみかん(プロフ) - 本物の柴崎さんがスペインへ移籍し、体調不良の報道を日々聞くと、河上さんに現地に行ってもらって元気になってもらいたい欲がすごくてでしまいまして…。日々、報道を聞くたびに「河上さーん!」と心のなかで叫びながら妄想してることをここにご報告致します(笑) (2017年2月15日 20時) (レス) id: a45c69a6d5 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - ゆいなさん» この後、波乱の展開にしたくてそこまでは一気に頑張ろうかと。まったりお付き合いくださいませ。 (2017年2月13日 7時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - 久々に河上さんと岳くんのおしゃべりが読めてとても嬉しいです! (2017年2月13日 3時) (レス) id: 98c1bb9861 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - wakoさん» ショウマの下りは上手いこと書いたな、私!と小踊りしましてね…(笑)ナチュラル人タラシめ!本気でお世話してくれる恋人がいたらいいな、と思っていますよ。可哀想すぎる。時間もあまり無くて、でも焦っても欲しくない。頑張ってね。 (2017年2月10日 19時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シナノ | 作成日時:2016年8月25日 19時