お泊まり3 ページ8
「どうしたの?」
Aに聞かれて、何と答えていいのか言葉を選びながら
「味噌汁の味が同じでびっくりしている」ということを伝えると、AとAのお母さんは顔を見合わせて、ころころと笑い出した。
「この味が私の基本なの。似てる?近づいてきてるかな?」
「旨い」
五臓六腑に染み渡る。
大根の切り方はAとは違う。
これは銀杏の形だけれどAは長方形だ。
「美味しそうに食べてくれるから気持ちがいいわね」とお母さんが言い、お父さんに注がれたビールを口にすると、Aは呆れたように「お父さん、飲ませないでよ」と睨んでいる。
「ドイツはどうなんだ?」
昆布が入ったおにぎりを半分食べたところでお父さんに聞かれた。
口の中のものをごくんと飲み込むと「厳しいですけど、楽しいです」と答えた。
いつもドイツのことを聞かれるけれど、環境が変わっただけでやることは変わらない。
ボールを蹴って、追っかけて、取って取られて。
「家事を自分でやらなければいけないので、それは大変ですけど…」
なかなか慣れなくて煩わしい炊事洗濯について苦笑いすると、お母さんは「まぁ」と首を振った。
「Aが我が儘を言って着いていかなかったからでしょう?本当にこの子ったらね」
Aとお母さんが台所に行き、お父さんと二人っきりになった時、ぽつぽつと交わした会話でも感じていた。
「Aはドイツには行かないのか」
「え…、っと…、仕事があるからとは言ってますけど」
「君はそれでいいのか」
曖昧に頷くと、お父さんはAは言い出したら聞かない子だから、と頭を下げた。
多分、お父さんは俺らが別れた事を知らない。
お母さんも、だ。
だからこんなに歓迎してくれている。
きっとここは『振り』をした方がいいんだろう。
Aを見ると、ふて腐れたように頬杖をつき、お茶を飲んでいた。
「いつ帰ってきたの?」
「今日の昼過ぎ、です」
「まぁ、そうだったの。疲れているでしょう?それなのにこんなAに運転させられて…ごめんなさいね」
いえ…、と言うと、Aとちらり目が合い、Aはつっけんどんにちゃぶ台の上を片付け始め、お母さんは呆れたようにAを見てため息を吐くと「柴崎さん、お風呂入る?お父さんのだけれど、着替え持ってくるわね」と空いた湯呑みにお茶を注いでくれた。
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シナノ(プロフ) - まるみかんさん» 私も代理人じゃなくうちの河上を派遣しますよ?と思いました(笑)ネガティブな報道が出ていて真実は解らないですが、早くトレーニングしている姿を見たいですね。今飲んでる生姜の葛湯を飲ませたいなぁ。 (2017年2月15日 20時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
まるみかん(プロフ) - 本物の柴崎さんがスペインへ移籍し、体調不良の報道を日々聞くと、河上さんに現地に行ってもらって元気になってもらいたい欲がすごくてでしまいまして…。日々、報道を聞くたびに「河上さーん!」と心のなかで叫びながら妄想してることをここにご報告致します(笑) (2017年2月15日 20時) (レス) id: a45c69a6d5 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - ゆいなさん» この後、波乱の展開にしたくてそこまでは一気に頑張ろうかと。まったりお付き合いくださいませ。 (2017年2月13日 7時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - 久々に河上さんと岳くんのおしゃべりが読めてとても嬉しいです! (2017年2月13日 3時) (レス) id: 98c1bb9861 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - wakoさん» ショウマの下りは上手いこと書いたな、私!と小踊りしましてね…(笑)ナチュラル人タラシめ!本気でお世話してくれる恋人がいたらいいな、と思っていますよ。可哀想すぎる。時間もあまり無くて、でも焦っても欲しくない。頑張ってね。 (2017年2月10日 19時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シナノ | 作成日時:2016年8月25日 19時