お泊まり ページ6
車から降りると、玄関まで小走りになり、息を整えぬままチャイムを鳴らした。
玄関のドアの磨りガラス越しに電気がついたのがわかり、なかなか開かないドアに軽く苛立つ。
やっと開いて顔を出した母が私の顔を見て、まぁ、と声を上げ、ばつの悪そうな表情を浮かべた。
「お父さんの具合は?病院には電話したの?どんな状態?」
母は、あのね、Aちゃん、あのね、と取り繕うように言ってから、私の後ろに立っていた岳くんに気付くと、あらまぁどうしましょう、と口を押さえた。
「お父さん、ねぇ、ちょっと、お父さん」
お父さん…?
家の中に向かって叫ぶ母に疑問符が頭に浮かぶ。
「とりあえず上がって。まぁまぁ、あら、どうしましょう。柴崎さん、よね?どうぞどうぞ」
電話で掛けてきた時とは違い、のんびりとした様子の母に苛立ちながら「ねぇ、ちょっとお父さんは?」と聞くと、「おー、どうした」と元気そうな父が顔を出した。
「ねぇ、どういうこと?倒れたんじゃないの?お父さん、元気じゃないの!」
込み上げてくる怒りを抑えながら言う私に「柴崎さん、どうぞ入って」と言い、私の様子に戸惑っていた岳くんは私と母の顔を交互に見てから「おじゃまします」とスニーカーを脱いだ。
ちょっと、なんなの?
どういうこと?
意味が全く解らないんですけど!
岳くんが家に上がり、取り残されたように玄関で立ちすくむ私に「わざわざ帰ってきてくれてありがとう」と母が言った。
「どういうこと?」
「ごめんね、私の勘違い。お父さんったらね」
お風呂の中でうたた寝しちゃっていた父と
早合点して倒れたと勘違いする母と
あきれ果てて脱力する私と
その場に何故かいるプロサッカー選手。
「ごめんなさいね、柴崎さん」とお茶を出して謝る母に恐縮して正座している岳くんに「いいよ、崩しなよ」と言うと、でも…と言いながら、やっと足を崩した。
父は嬉しそうに冷えた缶ビールを持ってきて「飲むだろう?」と岳くんに言った。
「いや、飲まないよ。車だし!」
「遅いんだから泊まっていけばいいだろう」
「何勝手なこと言ってんの」
「ほんと、そうよ。泊まっていきなさいよ。仕事あるなら朝帰ればいいでしょ。柴崎さん、お腹はすいてない?」
「あ、えっと…」
夕飯を食べていなかった岳くんは私を見て、それから「すいています」と母に言った。
母は嬉しそうに台所に行き、慌てて私も立ち上がった。
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シナノ(プロフ) - まるみかんさん» 私も代理人じゃなくうちの河上を派遣しますよ?と思いました(笑)ネガティブな報道が出ていて真実は解らないですが、早くトレーニングしている姿を見たいですね。今飲んでる生姜の葛湯を飲ませたいなぁ。 (2017年2月15日 20時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
まるみかん(プロフ) - 本物の柴崎さんがスペインへ移籍し、体調不良の報道を日々聞くと、河上さんに現地に行ってもらって元気になってもらいたい欲がすごくてでしまいまして…。日々、報道を聞くたびに「河上さーん!」と心のなかで叫びながら妄想してることをここにご報告致します(笑) (2017年2月15日 20時) (レス) id: a45c69a6d5 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - ゆいなさん» この後、波乱の展開にしたくてそこまでは一気に頑張ろうかと。まったりお付き合いくださいませ。 (2017年2月13日 7時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - 久々に河上さんと岳くんのおしゃべりが読めてとても嬉しいです! (2017年2月13日 3時) (レス) id: 98c1bb9861 (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - wakoさん» ショウマの下りは上手いこと書いたな、私!と小踊りしましてね…(笑)ナチュラル人タラシめ!本気でお世話してくれる恋人がいたらいいな、と思っていますよ。可哀想すぎる。時間もあまり無くて、でも焦っても欲しくない。頑張ってね。 (2017年2月10日 19時) (レス) id: bcbad8d595 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シナノ | 作成日時:2016年8月25日 19時