無意識のゼロセンチ ２

てっぺん２ ページ40

クラブハウスに届く日本からのファンレターを紙袋に入れていたら、マルコがニヤニヤと笑いながら「手伝おうか？」と言い、ポストからその封筒のひとつを手に取った。

「相変わらず人気スターだね、ガク」

マルコは嫌味で言ってるのではない。
熱心な日本のファンの子たちに純粋に驚いているのだ。

インスタグラムに俺を載せると日本人のフォロワーが増えると、マルコは目を見開いて驚いていた。
「一晩で2000人も増えたんだよ？次の日にはその３倍だ。ガクは何者なんだ」
って。


本当に俺は何者なんだ？


こっちで大して活躍もしてないのに。

自嘲する俺は相当捻くれていると思う。
ファンレターの数と活躍が比例していないなんて、何をやってんだろう。

へこむ。

もちろん、手紙を貰えるのは有り難いし、励みにもなるけど、貰える資格があるんだろうか？
なんだかな…と、たまに考える時がある。


「それにしても日本の切手ってなんて美しいんだ、これなんて丸い形だし、面白いね」

そう？と曖昧に返事をしながら、ファンレター以外のものが入っていないか探していた。

海外のクラブに在籍しているからといって代表の席が確保された訳ではない。
それに代表で定位置を掴むためにここに来た訳でもない。
クラブにJFLからレターが届くなんてことはなく、それならばそれで、と今のクラブで頑張るのみ。


でも今回はちょっとだけ、あの美しい、手入れされた芝が素晴らしい、サポーターと一体化される大好きな、愛着あるスタジアムに行きたかった。
あそこで青いユニを着てプレイすることを思った。

サッカーを始めてから、そしてプロになってから、お世話になった人たちに今の自分を観てもらいたいと思う。


ここに来て８ヶ月ほど経ち、日本にも何回か帰国したけれど、カシマスタジムに寄ったことはなかった。
今日届いてないってことは今回は招集されないのだろう。


さて、頑張ろう。
今を。
今、できることを。


ドイツの冬は日本より早く、クラブハウスを出るとポプラの落ち葉が風とともに俺の足にまとわり付き、踏むと小気味よい音がした。
ジャケットのボタンを一番上まで留めると、駐車場まで小走りで行く。

ドイツ語の勉強、マッサージ、スーパーでの買い出し。
午後もやることは盛り沢山。

俺が何者かって？
ただのフットボーラーだ。

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