無意識のゼロセンチ ２

そして、それから８ ページ30

「あ、そーだ」

お豆腐にキッチンペーパーを包んで水切りしている私に空になったグラスを差し出してココがかったるそうに首を持ち上げ言った。


「あの男ねー」

「あの男、って？」

「ほら、業者の。前、ここにも野菜持って来てたでしょ？A、そことは手を切ったって言ってたじゃん」

「ああ、あの」


思い出しただけで虫唾が走る。

頭に巻かれた汚いタオル。
汗で塩が吹いたピッチピチの趣味が悪いTシャツ。
体型とサイズの合わないデニムを履いていたあの厭味ったらしい若造を思い出し、憎々しげに頭を振った。


「捕まったんだよ、警察に」

「えっ！？」

「野菜、自分んとこの畑で作ったとか言ってて、でも上手く行ってなかったんじゃん？海外の野菜、偽装して配達してたのバレてさ、詐欺容疑みたいな」

「うそ！ほんとに？」

「あいつさ、アタシのこと田舎のキャバ嬢とか呼んでてさ、トモいないとこでわかんないようにお尻触ったり、胸じろじろ見てきたり、もー超最悪。バレバレだっつーの。」

「私なんてブスって言われたわ」

「ブス！？あはは、なんだそれ！子供か！小学生かっつーの！ざまあ味噌漬け！！一生シャバに出てくんなっ！！」




「なになになに？何の味噌漬け？美味いの？」

いい年した女が喚いていたところに、ぴょこんと顔を出した聖真くんがにこにこ笑って立っていた。


「ただいまー。あ、ココさん、今日の弁当さー、ヤバかったって」

「えっ！？不味かった？それとも異物混入あった？」


聖真くんは「違うしー」とケラケラ笑って「めっちゃ美味しかったよ」なんてスマイル。
からのウインク。


かーーーーっっ。
この天性のタラシめ！
聖真じゃなくて娼魔だろ！！
もしくは性魔！！

ココはキャーーなんてデレッデレ。
エクステとマスカラで長くくるんとなった睫毛をばちばち瞬きしながら「何食べたい？リクあったら聞くよー」なんてアヒル口とかにしても可愛くないから。
年考えなさいよ。

ばかばかしー、とため息ついたら聖真くんが意地悪く笑った。

「Aちゃん、岳に似てきた」

それを聞いたココも一緒になって吹き出す。

「A、ここ！ここ！」

自分の眉間を指差して「皺になってる！一度出来ちゃうとなかなか取れないんだからね！」って意地悪く唇の端っこを上げた。

ぷるぷると震えながら私はゆっくり顔を上げ一喝。


「うるさい、うるさい！ここからみんな出ていけっ！私の神聖な職場よ！！」

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