無意識のゼロセンチ ２

借り３ ページ3

玄関で靴を履き替えていたら、ドアが開き聖真くんが入ってきた。
ぶらぶらと雑誌が入っているだろうビニール袋を揺らしながらぶらさげている。


「コンビニ帰り？」

「Aちゃんはこれから帰るの？」


おつかれれれー、と聖真くんがゆるく声を掛けてくれていたら、廊下の奥のドアがばたんと開く音が聞こえた。
ぺたりぺたりとスリッパの音が鳴り響く。

「おはよ」

聖真くんがボーッとしている岳くんに笑って言った。
ん、と岳くんは短く返事をし、「腹へった」と後頭部をがしがし掻いた。

私の顔をじろりと見る岳くんに、うっ…と、固まる。
ごくりと唾を飲み込み、岳くんの顔を見上げた。


えっ、と…


突如、パーカーのポケットに突っ込んであった携帯が震えた。

「ちょっとごめんね」

小声でそう言うと、携帯の画面を確認。
さっきから何度もかかってきていた実家からだった。


「もしもし、なに？」


掛けてきたのは母からで慌てたように『良かった、繋がって』と言った。
尋常じゃない様子に「どうしたの？」と聞くと『お父さんが倒れてね』と言うから大声が出た。

「お父さんが？どういうこと？病院行った？救急車呼んで！とにかく私、すぐそっちに行くから！！」

電話を切り「帰るね」と言い、立ち去ろうとした時、聖真くんが「がーくっ」と呼び、車の鍵を投げた。
弧を描いて宙に浮いた鍵を岳くんは片手でキャッチすると「送る」とボソリと呟いた。


「え、いいよ、自転車あるし」

「自転車で実家帰るつもり？」

「そうだよ、Aちゃん、お父さんに何かあったんでしょ。早く行かなきゃ」

「でも…」

「今からじゃタクシーも捕まんないよ、早く行きなよ」


聖真くんに急かされ、もじもじと二人の間で迷っていた。

岳くんはさっさと共同の靴箱から自分のスニーカーを取り出して、早くしろよと言わんばかりに私を睨み付けるように見ている。

「俺は明日も練習あるし、暇で退屈でしょうがない岳に送ってもらいな」

岳くんは即座に何か突っ込もうと口を開こうとしたけれど、それを止めて「急がなきゃいけないんでしょ」と私に言った。

ごめん、と私は小声で言ってよろしくお願いします、と頭を下げる。
急いで厨房に置いてあったおにぎりをラップで包み、手を振って見送ってくれる聖真くんをバックミラーで見ながら岳くんの運転する車に揺られていた。

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