無意識のゼロセンチ ２

少し悔しい２ ページ18

よく仕組みはわからないけれど、シーズンを半分に分けてファースト、セカンドとし、そのファーストで勝ち点を一番積んだ鹿島アントラーズが優勝した。


「じゃあまたユニフォームに星が増えるの？」

「チャンピオンシップで勝たないと増えないんだって」


眉をひそめながら植木さんが教えてくれた。

ゴール裏はたくさんの大旗がはためいている。
いっぱいのゲーフラを掲げる人たちの顔はこの席からでは解らないけれど笑顔だろう。

戦い抜いた選手たちが拍手で迎えるサポーター達に向かってゆっくりと歩いていく背中を見つめる。
こぼれそうになる涙をそっと指で拭った。
広くて大きな背中を見て「ほんとよかったね」と独り言のように口にする。
何回も、何回も。


私が寮に住む選手たちや岳くんにに会ったのは丸2日のオフ明けだった。
民放のスポーツ番組に出ずっぱりのあとは、みんなで軽くお祝いもしたようだったけれど、まだ中盤、これからが勝負と満男さんが締めたようだった。

だから私も浮かれた様子のない寮に出勤しても、あれ？優勝したんじゃなかったっけ？と疑問に思うくらい、普通のいつもの日常だった。

大量に刻んだ玉葱を炒めていた時だった。

「おつかれ」

集中していたから食堂のドアが開いた音にも気付かず、声を掛けられて顔を上げた。


「あ、お疲れさま。おめでとう」

「俺は関係ないけどね」


苦笑いの岳くんは、ポケットから携帯電話を取り出し、カウンターの上に置くと、椅子をひとつ持ってきてカウンターの端に座った。


「お昼、食べた？」

「それ狙ってきた」

「焼きそばにしようと思ってるんだけど」

「いいね」

「乗せる卵は目玉焼き？それとも薄焼き卵？」

「目玉焼きかな、半熟の」


じゃあ、作ろうね。
しんなりしてきた玉葱の入ったフライパンを脇に置き、野菜を切っていく。
キャベツたっぷり、人参、もやし、きのこも少し。
玉葱は炒めたのを少し拝借。


「それでも嬉しいでしょう？」

トントンと野菜を切りながら岳くんに聞いた。
携帯を見ていた岳くんが顔を上げ「ファースト優勝のこと？」と言った。


「嬉しいけど、悔しいかな。あの場に俺がいないってのが」

淡々と話をする岳くんを横目に小間切れの豚肉を熱したフライパンに入れるとジュウと美味しそうな音がする。

「リーグ戦のタイトル獲れてなかったし」

岳くんのお喋りと野菜を炒める音が混ざり合う。

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