無意識のゼロセンチ ２

むむむ…な二人 ページ11

前日から寮はいつもより静かだった。
ここで生活している何人かも遠征で神戸に行っている。

優磨だ。
優磨が不在ってだけで静かだ。

源も、か。
あの畳み掛けてくるようなマシンガントークが聞こえてこないだけで、めっちゃ静か。

遠征の日は調理の人達は来なくて、しょうがないからコンビニに行ったり、外食したり。
誰か「作ろうか」なんて言う奴が出てきてもいいのに、そんな奴、今まで出てきたことがない。
俺だって一度も厨房に立ったことがなかった。


起き抜けに、部屋から出ると、コンビニ帰りの和音とひさが「おはよー、岳くん」と声を掛けてきてた。


行くんなら俺もなんか買ってきてもらえばよかった。

なんだよ、声かけろよー、
と理不尽に後輩を弄ったりしてみる。

しゃーないなー、とウィダーインゼリーを和音がくれたけど、こんなんじゃ身体動かねーっつーの。

ちょっと早めに寮を出ると、いつも通っていたカフェに寄る。
Ｋ、だ。

コーヒーとピタサンドを買うと、マスターが耳打ちするように「Aちゃんに会う？」と聞いてきた。


「頼まれてた豆が届いたんだけど、忙しいみたいでなかなか取りに来られないみたいでさ」

「渡しておきますよ」

「頼まれてくれる？悪いね」


今日Aと会う予定なんてなかったけど、さ。
コーヒー、預かっちゃったし。
腐ることはないだろーけど、鮮度落ちるかもしれないし。
しょーがねーなー。


日本に滞在している間、借りている車に乗り込むと、助手席にコーヒー豆が入った紙袋をぽんと置く。

かさかさのクラフト紙の紙袋を見た。
別に会いたい、って訳じゃねーし。
言い訳をするように心の中で呟いた。

会いたい訳じゃないけれど、会いたくない訳でもない。

だって俺とAは友達で、それ以上でもそれ以下でもないのだから。

乗り慣れない車にエンジンをかけた。



さて。

練習に行こうか。


* * * *

『腹、減った』

といきなり言われても。

電話をかけてくるなら、最初に季節の挨拶、親しき仲にも礼儀あり。

確かにお腹がすく時間で、何を食べようか、何を作ろうか、考えていたけれども。


「練習、終わったの？」

『終わった』

「アントラーズカフェ」

『閉まってる』

「coco-deli」

『昨日食った』

「みんなとどこかでごはん」


電話越しにも岳くんがイライラし始めきたのがわかる。


『なんか食わせてって言ってんでしょ』


そんな風に言うな。
ちょっと甘えたように言うな、こんちくしょう。

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