無意識のゼロセンチ

賄いを食わせろ ページ27

だいたい私が通勤する時には寮には選手の姿が見えなくて、しんと静まりかえった中、作業を始める。

乾物を水で戻し、冷凍したお肉を解凍する。
人数分×摂取量を計算し、お米を研ぐ。
一番大きなお鍋でお湯をたっぷり沸かし、お出汁をとる。

厨房の隅に昔からあったらしい古いラジオでFMを流しながら、夕飯の時間を逆算しながらする作業。

昨日の夜遅くに源ちゃんと夢生くんは鹿嶋に帰ってきたみたいだから、また二人分多い夕飯を用意しなきゃ。

ラジオパーソナリティーが桜の開花情報について話をしている。

お花見、行きたいなぁ。
お弁当持って。

あ、行楽弁当！
ココに相談してみようかな。
デリバリーで、何か期間限定でできないかな。
桜の下じゃなくても、この時期、オフィスでパソコンに向かってじゃなくて、外でごはんを食べたいんじゃないかな？
食べやすくて、見た目も華やかで美味しいお弁当。

いいアイデアが思い付くと、いつもの作業も楽しくなってさくさくはかどる。
気付いたらお昼をすっかりまわっていて、でもこの作業を止めたくないな。
これを作り終えたらおひるごはんにしよう。

釣り戸棚に置いてある予備のキッチンペーパーを取ろうとして………しくった。
やっちまったぜ…。

以前にもこんなことがあったなー、なんて回想している場合じゃない！
学習しない私ってもう、どうなの。

うーん…

踏み台を使えばよかった、とか、後悔先に立たず。
この箱を取るときっと上に置いてある備品が雪崩れてくる。


「おばちゃーーん」


管理人室でテレビを観ているだろうおばちゃんを大声で呼んでも厨房に現れるわけでなく。


んもーーっっ。
くぅぅぅ……。


腕がぷるぷるするー！！

たーすーけーてー！！


あーん、もう無理…って思った時、カタッと食堂の戸が開く音が聞こえた。

天の助け！

やった！


「しょーーまくーーん！助けてー！」

この時間になるとよく顔を出す聖真くんを呼んだ。
すっと手が伸びて、斜めに崩れてきそうになっていた箱をつつっと押し込んでくれた。

「セーフ！」

笑いながら隣にいる人にお礼を言おうとして、初めて顔を見、立ちすくむ。

「聖真じゃないけど」

埃っぽい箱を触った手をぱんぱんと叩いている人は、聖真くんじゃなかった。

「シバサキだけど」

そう言って真顔で私を見下ろす人は確かに柴崎岳だった。

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