ひとりぐらし3 ページ3
「このシュークリーム、どうしたの?」
「差し入れがあってねー。余ってたから貰ってきちゃった。Aちゃん、好きでしょ?」
好き、好き。
だーいすき。
いただきまーす、って一口。
さくっ
ふわーり
とろんとしたクリームの甘さが口いっぱいに広がっていく。
ああ、この味。
岳くんも時々このシュークリームを「くすねてきた」とか唇の端を上げて持ってきてくれた。
今、聖真くんが聞いたみたいに「A、好きでしょ?」って聞いてきて「好き、好き。だーいすき。」と私は喜んだ。
こんな風に向かい合って、コーヒーを飲みながら他愛もない話で笑い転げながら一緒に食べた。
美味しいね、って言いながら。
「そんな泣くくらいなら岳に付いて行けば良かったのに」
「…えっ?」
聖真くんは、ティッシュの箱を取ってくれながら私の顔を覗きながら眉を下げた。
私は泣いていた。
ぽろんぽろんとこぼれていく涙に唖然としつつ、抑えることができなかった。
「や、やだなぁ…もう…へ、へんなのー」
私はティッシュで目を押さえながら、ちーんと鼻をかむ。
1枚じゃ全然足りなくて、2枚3枚と取って、えへへ、と頑張って笑って見せた。
「何で岳と一緒にドイツに行かなかったの?」
口の回りに白いお砂糖付けちゃってるくせに。
宿題を忘れた生徒に詰め寄る教師みたいに、聖真くんの目は真っ直ぐで、声は厳しかった。
真っ直ぐ過ぎて、それはもう今の私には。
「聖真くんは、私をここ、辞めさせたいの?」
「そんなことは言ってないよ」
「じゃあ、私にドイツに行って欲しかったの?」
「一緒に行くと思ってたよ」
「えー」
聖真くん、意地悪だなぁ。
今の私にその言葉はきついよ。
だって、一緒に来て、って言われなかったんだよ。
私は私の好きなようにして、って言われて、そんな突然に言われて、びっくりし過ぎて、一緒に行きたいなんて言えなかった。
寮でごはんを作る仕事だってあるし、自分の都合だけで突然辞めることはできなかったし、新しくやりたいこともあった。
小さな仕事だけれど、前からやりたいと思っていた夢だった。
それが叶いそうだったし、やっぱりもし岳くんから「付いてきて欲しい」って言われても、今の私は付いていくという選択肢はなかった。
それなのに、そんな風に聖真くんに真っ直ぐ言われたら、私の確固たる決意が間違っていたんじゃないか、って揺らいじゃうから、やっぱり涙は止まらない。
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シナノ(プロフ) - まままままさん» あはは、失礼しました。終わりません、終われない!新展開、こんな流れでいいのかな?ほのぼの&もやもやでいきたいと思います。ほんと、一度ばあちゃんに叱られたらいいと思うよ?(笑) (2016年8月25日 19時) (レス) id: 572a644ee4 (このIDを非表示/違反報告)
ままままま(プロフ) - 「あとがきとありがとう」ってあったから、もう終わりΣ(゚ロ゚;)!?と焦りました(笑)新章での新展開が楽しみです♪それにしても、ドイツのおばあちゃんみたいにはっきり言ってくれる人が日本にもいたら面白いですね〜!今の岳くん、何点かな…。 (2016年8月25日 13時) (レス) id: e3433be42f (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - まままままさん» 怒濤の更新中です(笑)もうずっとココちゃんを書きたかったので嬉しい(笑)今、やっと福岡戦の録画を観てます。仙台戦のは観たくない…(。´Д⊂) (2016年8月24日 10時) (レス) id: 572a644ee4 (このIDを非表示/違反報告)
ままままま(プロフ) - リアル岳くんの活躍も、鹿島の勝利ももっと期待したいですよね〜。ここの岳くんには優勝以外で活躍してもらいましょ(笑)楽しみにしてます! (2016年8月24日 0時) (レス) id: e3433be42f (このIDを非表示/違反報告)
シナノ(プロフ) - まままままさん» あはは、ホントにね!みんなから叱られちゃいますね。一応時系列を追って書いてますがちょいちょい忘れているところもあるので悪しからず…。1st優勝は岳くんがいてこそなんですが、いなくても優勝させちゃいます(笑) (2016年8月24日 0時) (レス) id: 572a644ee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シナノ | 作成日時:2016年3月31日 23時