無意識のゼロセンチ

忙しく穏やかな日々３ ページ17

大伍くんは、んー、と天井を少し見てから、ふぅと長い息を吐くと目を左右に泳がせてから、またもう一度息を吐く。
そして「ぶっちゃけて聞くけどさ」と私の顔を覗き込んだ。


「岳と別れたってほんと？」

「へ？」


何を聞いてくるかと思ったら！
そんな大袈裟なこと？

「ね、私たちのこと、なんて噂されてる？」

ぐいっと前のめりになって聞いたら
「成田で今まさにチェックインしようとしている岳に偶然Aちゃんが遭遇。黙って行こうとしていた岳に激怒し…」
と大伍くんは言って「あ、グーで殴ったってホント？」と聞いた。


はぁ？
なんだそりゃ！


「それさ、発信源はどこ？」

首を振りながらため息を吐き、一応聞いておく。


「聖真」

「やっぱり！」


土居！
あいつめ！
もう適当なこと広めちゃって！
もうコーヒーもおやつもあげないんだから！！


「はーい、別れましたー」

私が片手を上げて戯けると、被せるようにして「なんで」と大伍くんは怒ったように聞いた。


「別にAちゃんが付いて行かなくてもさ、わざわざ別れなくってもよかったんじゃねーの？」

「そうなのかなぁ」

「そーだろ。で、オフの時に会ったりしてさ」

「んー……」


煮え切らない私の返事に大伍くんの眉が寄り、イライラするように足を揺すった。

そんな選択肢ってなかった。
だって今までずっと一緒にいたんだもの。
離れてても会えなくても付き合っているって、なんだかそれは想像できなかった。


「新天地で挑戦しようとしている岳くんに私の存在は邪魔かな、って」

「そんなことないでしょ」

「それにね、待つのも嫌なの」


電話くるかな。
今日は話せるかな。

LINEの返事来ないけど、どうしたんだろ？
あんまりメッセージ送らない方がいいのかな？
しつこすぎる？

邪魔しちゃってる？
大丈夫？

きっと私は私を嫌いになる。
疑心暗鬼で自信喪失して、些細なことで岳くんと喧嘩する。
頑張っている岳くんの足を引っ張ることになる。

そんなぐちゃぐちゃな毎日は嫌だ。
岳くんを嫌いになりたくなかった。


「婚期逃さないように新しい人探さなきゃ。そうだな、やっぱり安定した職業の人とかがいいかなぁ。弁護士！医者！公認会計士とかもいいなぁ。私の今の計算とかパパっとやってくれる頭のいい人。大伍くん、誰かいない？」

早口で聞く私に被せるように、知らね、と唾を吐き出すように大伍くんは言い、そっぽを向いた。

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