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五メートル。その距離を埋め、先程まで彼女が佇んでいた場所で止まる。
まっすぐ、虚空に視線を定める。
綺麗過ぎると思った。可憐に、柔らかい布を靡かせて、ワルツのステップを刻む様に。麗しい彼女の事だから。きっと、月にでも帰っていったのだろう。
恋人どころか、友人ですら無い。僕達の関係は曖昧過ぎる。お互いに都合良く相手を頼る関係、とでも言えば良いだろうか。
つかず離れず、絶妙な距離感。
僕が寂しいと言えば、彼女の都合が合えば来てくれるし、彼女が逢いたいと伝えてこれば、僕は余程大事な用が無ければ従っていた。
でも強制では無い。決して縛り付けられていた訳では無い。行けない、と言えばそっか、となるだけ。その位の、緩い、名前の無い存在。
慰め合うだけの、その為だけの人。
それ以上を求めないし、求められない。
触れるけれど抱擁までしかした事は無い。所謂肉体的な慰めの相手とは違うから。純粋に寂しさを埋めてくれる。きっと彼女にとっての僕もそう。
恋、とは別物。
彼女に抱いた感情は、そんな単純な、ありふれた文字列で表せる程簡単じゃない。
執着？愛玩？欲求？悲観？
違う、どれも違う。
そして、どれも正解。
ぐちゃぐちゃ、どろどろ、ぐるぐる。
ありとあらゆる脳からの信号を混ぜこぜにして、凡百の想いを溶かして一つにぎゅっとした様な。
このまま同じ場所から降りて彼女の元へ向かってもいい。
でも、それも何だか腑に落ちない。
死んだから、死ぬ。
なんて解り易過ぎるんだ。弄れの成れの果てで寄り添う僕達には些か明快すぎる。こんなに稚拙じゃないだろう？なあ、A。
ポケットから若干草臥れた煙草の箱を取り出す。
有害物質が全身に行き渡る。余ったそれを薄く口から吐き出して、藍に溶ける様を見送る。
…紫煙、みたいやな。
そこに確実に有るのに、目には映るのに、掴もうとすれば指からすり抜けて絶対に手中に収まることは無い。なのに、うざったく俺の回りをふわふわと取り巻いて毒だけ撒き散らして消えていくんだ。
“『鬱くん』”
嫌でもこびり付いて一生離れていかない。それを分かっていて、此処で、目の前で踊ったんだろう。
俺は彼女の諦めた「生」を愉しむしか無い。
彼女の居ない、現実で。
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続く (更新停止中)
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みりあ - はー、すぅ、ファー😇 (2022年8月1日 19時) (
レス) @page17 id: c7129416ce (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 私にもそんな甘酸っぱい青春ありません(ﾆｯｺﾘ)あとこれ面白いです！頑張ってください！ (2021年4月26日 12時) (レス) id: 804ec0cc68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ろあ | 作成日時：2021年4月13日 20時
