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「開けてくださーい。そこにいるのはわかってますよー?」
人を小馬鹿にしたような巫山戯た声が、耳障り以外の何物でもない。
きっとドアを開けずとも、彼は部屋に入ることができるという予測がひしひしと事実になりゆく予感を肌で感じる。
「つーかまーえた」
やっぱり。
また私を楽にさせてはくれない。
気づいた頃には、怖いくらいに人肌を感じさせない、プラトニックな温度に抱擁され、脳が混乱した。
抱きしめられているのか。
やはり人間ではないのだと実感させられる。温もりもなく、逆に冷たさもない。ただただナニカに包まれる感触が受け入れられず、鳥肌を立てる。
『わざわざ、足を運ぶ必要無くなった。ありがとう』
いつも通り、なんで死んでないの、なんて言って混乱した表情を見せて仕舞えば彼の思う壺だ。反抗心と皮肉を込めて笑顔で言った。
未だ離れてくれない彼と振り返り、目を合わせる。
すると、想像していた反応とは遥かにかけ離れていた表情を浮かべていた。
息が荒い。頬だけに収まらず、顔全体を紅潮させている。目は酔っ払っているせいなのか、砂糖を煮詰めすぎたようにどろどろと気持ちも悪い輝きを秘めていた。
「…やっぱりな。へへ、お前、オレのこと好きなんだろ。」
何を言ってるんだこいつ。
「今まで気付いてやれなくてごめんな。ちゃんと、Aなりに愛を伝えてくれてたんだな。」
かわい、と恥ずかしげに頭をぽりぽり掻きながら言われる。先程まであんなにも呂律が回っていなかったにも関わらず、急に饒舌になった彼に恐怖を覚える。
『は?な訳ない。アンタのこと好きになるわけない。頭に蛆でも湧いてんじゃないの。きも』
恐怖と焦りで、言い訳のように早口になってしまった。
やはり彼の耳はだいぶ都合良く捉えてしまうらしい。
「意外と鈍感?かわいいな」
まずい。
くるな。
くるな。
やめろ。
必死に抵抗しても、彼にとって赤子同等の力なのだろう。口を押さえていた手をいとも簡単に退かされる。
唇が、触れ合った。
「恋人みてえだな。大事にするから」
きもちわる。
嗚咽が止まらず、思わずトイレに駆け込んだ。
『お"え』
嘔吐した。
初めてだったのに。キミはいつも唇にだけしてくれなかったから。初めてはキミのためにずっとずっと守ってきたのに。
唇が切れることも、袖口に血がつくこともお構いなしに、擦る。その度、自分が惨めに見えて涙が出てきた。
ファーストキスは、煙草とアルコールの味がした。
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。(プロフ) - ポメさん» 作品を読んでくださり、有難うございます!そこまでストレートに褒められるなんて光栄です。これからもこの作品に乞うご期待を。 (3月27日 23時) (レス) id: c787972aae (このIDを非表示/違反報告)
ポメ(プロフ) - 言葉に表せないくらいに最高です!!!! 次回の更新も楽しみにしてます! (3月27日 6時) (レス) id: 8673ceb004 (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - あさん» 作品を読んでくださり、有難うございます!褒め言葉で究極とまで言われてしまうとは、嬉しい限りです。これからもこの作品に乞うご期待を。 (3月14日 0時) (レス) id: c787972aae (このIDを非表示/違反報告)
あ - は〜〜〜え〜〜、なんか、何だ、もうあれです、究極的に好き…。楽しく(?)更新頑張ってください、待ってます! (3月13日 18時) (レス) @page9 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - ヨーグルトさん» 作品を読んでくださり、有難うございます!感想だけでなく、応援まで…モチベーション上がりまくりです!更新は不定期になってしまいますが、乞うご期待を。 (3月11日 23時) (レス) id: c787972aae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:。 | 作成日時:2024年2月3日 23時