そんな時代が ページ49
救急箱を久しぶりに取り出した。鼻につんとくる匂いをアグネスは苦手だ。苦手な匂いのする救急箱を取り出したのは来客のためだった。
た「痛っ！」
「悪いけど我慢して。」
アグネスは手際良く包帯をたしぎに巻いていく。兄代わりが怪我するたびに救急箱を持って走った体験は活かされているらしい。間も無くすると包帯は巻き終わる。たしぎの痛みも治まってきていた。
「終わったわよ。軽い打撲だけで良かったわね。」
救急箱を片付けながらアグネスは言う。たしぎは申し訳なさそうに笑う。たしぎの手は痛々しく包帯が巻かれ、周りには報告書が散乱していた。こうなった原因は数分前。たしぎか資料室に訪れた時だった。
た「アグネスさーん！居ますかー？」
たしぎは多少戸惑っていた。資料室が静かすぎたからだ。スモーカーほど資料室にいる頻度は高くないが、それなりに資料室に来ている。いつもはアグネスやアグネスの部下達が必ずいた。たしぎにとって資料室は賑やかなで暖かい場所だった。
た「…誰もいないんですか？」
たしぎはひっそりと資料室に入る。静かな資料室は広く感じた。資料棚は天井近くまで伸びている。たしぎはじっくりと資料室を見渡した。埃っぽい空間はまるで何年も人が出入りしてなかったかのように感じた。
「…？誰かいる…？そんな訳ないわね。」
アグネスは資料室奥の自室にいた。扉の先に気配がする。だが部下達が休暇中のため資料室は閉鎖状態。それでも訪ねてくる友人はいるが、その友人達は人員移動の話で忙しいはずだ。気配もきっと気のせいだ。
アグネスは見聞色を習得している。ただし最大限に発揮できたのは情報伝達係時代の話。今となっては衰えてしまっている。習得していても日々の鍛錬は必要。事務総長となる前は任務のために必要だった能力だ。
今は必要がない。自分より強い海兵など山ほどいる。
今に必要なのは見聞色の覇気より、正確な情報を得る情報網の獲得と裏づけだ。環境によって必要な能力は変わる。アグネスも必要な能力に変化しただけだ。
「私も弱くなったわね…。」
ふと思い出す。情報を伝えるために世界中を走り回った頃を。まだ口が裂けてなかった頃の思い出を。あの頃の自分は強かった。今よりも強かった。見聞色が常に体を刺激していた。人々の生活を陰ながら支えるために人に紛れ潜入し伝える。どこに敵が潜んでいるのか分からない。任務のたびに生きている感覚を思い出す。そんな時代がアグネスにもあった。
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黄部屋の住人（188号室）(プロフ) - サタケさん» 返信ってこうやるんね？コメントに書き込んじゃったがな。改めてサタケ様！コメントありがとう！これからも頑張って書いてくけね！ (2019年10月26日 20時) (
レス) id: 7af9d455f8 (このIDを非表示/違反報告)
黄部屋の住人（188号室）(プロフ) - 素直にありがとうございます！ただ妄想の吐口に書いていたからコメントまで貰えると思いわんかったです。応援してくれてありがとう！作品が好きって言ってくれて嬉しいがな照れるがな。 (2019年10月26日 20時) (レス) id: 7af9d455f8 (このIDを非表示/違反報告)
サタケ(プロフ) - 初めてコメントします。貴方の作品すごく好きです！主人公の設定がもろ好みです！これからも応援したいです！ (2019年10月26日 18時) (レス) id: d959334d8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黄部屋の住人（188号室） | 作成日時：2019年9月18日 23時
