ゼロ距離まで (ページ5)

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気づかれないようにため息をつき、後ろを見るとまだドアがあかないと一部で騒ぎになっているようだ。きっとそれも立て付けの問題だ。
春休みが終わり新学期になればドアもきっと開くようになる。たいしたことじゃない。

HRまであと1分。
誰も席につこうとはしないしまだ来てない生徒もいる。
ガラリと扉が開くと見慣れない靴に聞きなれない靴音をさせ先生が入ってきた。
その事にこのざわつきでは誰も気づくはずもなく、さくらが扉があかないことを伝える。

「とりあえず席につこうか。あれ？甲斐くん達は？」

先生は呆れたように聞いたところでタイミングよく問題児三人が登場。

「お前登校したのかよ。」
「悪い？」

別に、と短く言うと甲斐隼人は自分の席に座る。甲斐隼人とは幼稚園からの腐れ縁だったが彼が夢を諦めると言った時、二人の仲は悪くなりそれからはほとんど話さなくなってしまった。
ただ彼の家は母子家庭で下に兄弟もいる。母親の手伝いはやはり気を使わせてしまうようでご飯を持っていったり兄弟の世話をするくらいにしてた。

感謝されるためにやってたわけじゃない。

彼からは返せるものなんてないからやめろと言われていたが好きでやっていると言って身の回りの世話をした。

償いをしているとも思いたくなかった。

隼人には会うと喧嘩してしまうからそんな姿を兄弟に見せるわけにもいかず、いない時を狙って家に行った。
今日は何が食べたいだろうか。そんなことを思い先生を見ていると隼人達に蹴られた反動で教室のドアに体当たりしそのまま扉を閉じた。

またしても聞き覚えのないカチャリという鍵のかかる音がしたような気がする。
やけに今日は違和感ばかり感じてしまうが急に必ず全員が登校することになったからだろうか。

その違和感に気づいていたのはAだけじゃなくさくらも気づいたのか目を合わせてきた。咄嗟に逸らしてしまったがやはりおかしい。でも何が起こったとしてもどうにかする気持ちは微塵もない。
空気に沿って動くだけだ。動かないかもしれない。私は大勢の中の一人。

「みんなに大切な話がある。」

そう切り出した先生はニヤリと笑っているがメガネの奥の瞳は真っ暗だった。

「今から皆さんには人質になってもらいます。」