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そのままさくらに目をやると最初からAに伝える気はなかったのだろう。膝の上で拳をにぎりしめている。
そんなAはさくらを心配そうに見ては目を泳がせていた。
「景山澪奈は...今年の全国大会でドーピングがバレて自さつした。」
「さくら...っ!」
先生はそれ以上、Aは何も答えてはいけないよと目で訴えかける。Aは先生の目に弱い。人懐っこそうな目をする時もあれば、冷酷で誰も寄せつけない目をする時だってある。
どの目が本物の先生なのか、それはまだ分からない。
先生は冷たい目で何度も確かめるようにさくらに同じことを聞く。
「それがお前の答えか。それでいいんだな?」
「しつけぇなそれでいいんだ、」
「茅野に聞いてんだ!!!」
隼人が同じ事を聞く先生に苛立ったのか声を荒らげたがそれを上回る声で先生も隼人を声で押さえつけてしまう。
これも見たことない先生の姿。今まで怒ったことの無い先生だったからビックリする。
以前先生に生徒を怒らないのかと聞いたけど上手くはぐらかされ、私生活でもなかなか怒らないんだよなぁと間延びした声で言い手を止めることなく絵を書いていたのを思い出した。
「お前が景山のなにを見てきて何を見てなかったかよく考えるんだ。」
「今更何を言ったところで澪奈はかえってきません。」
「たしかに景山を失った過去は変わらない。でもこれからのお前をかえることはできる。自分自身で考えて答えを出すんだ。」
考えて答えを出す...。やっぱり澪奈を自さつにおいやったのは私なのだ。言う覚悟、批判される覚悟、死の覚悟。最後の覚悟だけ少し、ほんの少しだけ怖いと思うけど大丈夫、もういいんだ。
Aが口を開こうとした時に香帆が大きめにため息をついた。
「あのさぁ、なんか二人の世界に入ってるけどもう答えは出てるから。澪奈は水泳界のプレッシャーに押されてドーピングに、」
「違う!澪奈が自さつしたのはそんな理由じゃない。」
そう、そんな理由じゃない。さくら、お願い。
言い難いのはわかる。でも、
私を犯人にして。
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作者名:ゆゆたま | 作成日時:2020年4月9日 1時