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「──どうしたんだい」
「ぃえ、私……今まで、英雄(ヒーロー)なんて呼ばれたことなくて…！だから──ありがとう、ございます」
その双眼を潤わせながら、立香は言った。今にも溢れそうなそれを拭うと、その橙の瞳を目の前の校長に向ける。
「私は、藤丸立香と言います。さっきも言った通りの魔術師です。……どうか私に、私たちに、手を貸して頂けませんか？」
「勿論、そのつもりさ！」
「っ…！ありがとうございます…！」
「僕は、当たり前の事をするまでさ。君たちを救うのも、君たちに救われるからこそなんだよ」
校長はその小さい体でぴょこんと跳ねる。立香の隣でモリアーティは笑っていた。
「さて、そうなるとすると、君の身分が必要だね。君たちはこの世界には存在しない人物なのだろう？」
「えぇ、まぁ。でもそれは──」
「私がやるヨ」
立香の声を遮り、モリアーティは言う。立香も勿論、これはモリアーティとダ・ヴィンチにやってもらうつもりだったのだ。だから立香は何も言わないし、言おうと思った台詞を取られたことからか少しぶすくれるだけだった。
「──君には、それができるのかい？」
「勿論さ。私にできないことなどない」
「随分な自信だね……アーチャー…」
「無論、そうだとも！現に私にできなかったことがあるかね？」
「くそ、ないですよ！この黒幕が！」
「それはキャスターの最終再臨姿に言ってくれたまえ」
「うん、確かにあれは黒幕だった…じゃなくて！」
そこまで言ったところで、立香ははっと我に帰る。また、モリアーティに乗せられるところだった。そう呟き、立香は胸に手を当てた。
「すみません…見苦しいところを…」
「賑やかでいいと思うさ！それじゃあ身分のことは彼に任せるとして──相澤くん、オールマイト、入ってきてくれるかい？」
「……バレてましたか」
「すみません、校長先生」
「…え？包帯？……っと聖杯の…！」
「包帯の彼は相澤消太くんで、もう一人の方がオールマイトさ」
ドアの向こうにあったふたつの気配は、彼らだったらしい。薄々気づいていた立香は驚くことなく彼らに頭を下げる。
「…あれ？でも聖杯の持ちぬ…オールマイトさんはそんなに痩せてましたっけ？」
「事情があってね。あの姿には長い時間なれないんだ」
「なるほど…」
聖杯に自分の活動時間の延長でも願ったのか、と立香は思ったが、やけにまっすぐな英雄の目をした彼を見て、その考えをすぐに消した。彼は、まごうことなき英雄だ。
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作者名：黒崎 | 作成日時：2019年3月16日 18時
