依存と狂愛 ページ1
海人side
「これ、永瀬くんに渡してくれない?」
そう言って手渡されたのは、廉に対する手紙だった。
俺の目の前には廉のタイプそうな女の人が居て、さっき収録を終えたバラエティ番組で共演した人だ。
廉との絡みはあったかと思い出そうとするものの、全くもって記憶にない。
テレビで見て一目惚れ、的なやつだろうか。
「自分で渡すのは恥ずかしくて、海人くんに頼んだの」
顔を赤くしてそう言う彼女を周りの男の人が見たら、多分恋に落ちると思う。
「分かりました。責任持って渡しますね」
アイドルスマイルを浮かべてそう言うと、彼女はお礼を言って小走りで去ってしまった。
「…だる」
ポケットの中で震えたスマホを確認すると、廉から『いつ帰ってくるん』と可愛いメールが来ていた。
「今すぐ帰るよ、と…」
準備が遅いと言われている俺だが、この時は秒で準備を終わらしてマネージャーに法定速度ギリギリで走るよう頼んだ。
「あ、これ捨てといて」
「何これ」
俺の家の前に着いて、当たり前かのようにソファに座ってテレビを見ている廉を想像しつつ、マネージャーにさっき渡された手紙を渡した。
「これ、永瀬宛てだけど」
「知らなーい。自分で渡さないで、よりによって俺に渡す方が悪いんだもん。捨てて」
「捨ててって…申し訳ないだろ」
「廉に見せたくないから。俺の愛だけで十分でしょ、廉には」
「お前なぁ、永瀬が知ったら傷付くぞ」
「廉は気付かないよ。こんな俺のドロドロした気持ち。じゃ、お願いねー」
まだ満足気ではないマネージャーの車から降りて、俺は急いで玄関の鍵を開けて愛しい廉が待つ家の中に入った。
「ただいまー!」
「おかえり」
リビングからひょこっと顔を覗かせた廉に思いっ切り抱き着いて、すぅぅぅぅと深く息を吸う。
「今日も遅くまでお疲れさん」
「俺の廉が可愛い。疲れ取れる」
「はいはい、分かったから」
廉の前では可愛い弟、可愛い年下彼氏で居る。
夜も激しくしたことはないし、いつだって廉優先。
だから、廉が俺の黒い部分を知る必要はない。
廉はピュアなままで。
廉を閉じ込めて俺以外が視界に映らないようにしたい、廉を服従させたいとか。
そんな俺の気持ちは、一生知られることはないのだろう。
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作者名:あんず | 作成日時:2023年8月7日 13時